307.アベル君と戦地への移動。
307.アベル君と戦地への移動。
「オスカーがそれは王家の威光でならぬと言えば万事解決だ。」
「それは…父上がなんというか。」
「王陛下が何と言うか分からなければ、直接聞けばいいじゃないか。」
「む。」
口をへの地に曲げ、オスカーがすねたような顔をする。
「そうでなければ」
「そうでなければ?」
「学校長を呼べ。」
「グスタフか。あれはお前がお気に入りだがからな、味方をしてくれるかもしれん。」
はたしてそうかな。
軍務大臣閣下は根っからの軍人だからな。
話し合いなんてぬるい解決策を望まないかもしれないが。
「ではグスタフを呼ぶか。アベルはここで待機で良いな。」
「それが良いだろうな。面をテクテク歩いていたら、吊し上げに遭うかも知れないし。」
「うむ、では執事に城へ行ってもらうか。邪魔をしたな。」
「ちょっと待てオスカー、今日おっぱじめるんじゃないだろうな。」
「わ、私とてそれほど愚かではない。明日という段取りで行く。」
こいつ、今から軍務大臣を呼ぶつもりだったな。
「うん、それが賢明だろうな。」
「では、明日呼びに来る。」
そう言ってオスカーは部屋から出て行った。
「アベル様、大丈夫なのですか?」
「どう転がるかは分かんないな。ローズも身辺気を付けるように。僕の身内だって知られているからね。」
「承知しました。」
「出来るだけ手は出さないように。逃げ切って。相手が貴族だとさっきの話のようになるから。」
「承知しております。」
「うん、ならば結構。食事にしよう。おなか減っちゃったよ。」
「はいっ!」
ローズは陰鬱な表情から一転、明るい返事をして台所に向かった。
あ、説明しておくと、寄宿舎と言っても、すぐイメージできるような狭い寮の部屋って感じじゃなくて、3LDKのアパートって感じ。
ピンと来るかな?
一応貴族用だからね。
従者を連れてくる前提だからさ、こんな贅沢な設備になっている。
平民用には、イメージどおりの寮って感じなんだってさ。
てなわけで、シチューの入った皿を持ってローズがやって来た。
さっさと食べて、さっきの続きをしよう。
そして翌日。
コンコン、とノックの音が響く。
部屋のドアにメイド姿ローズが向かった。
俺?昨夜の余韻とローズの残り香を楽しんでんだよ、邪魔すんな。
「アベル・ヴァレンタイン様のお部屋でしょうか?私は王家の執事、ジェームズと申します。アベル様は御在宅でしょうか?」
聞き覚えのある、歳をとったが渋みのある声が聞こえた。
「はい、少々お待ちください。」
対応したローズの声も聞こえた。
しゃーなし、起きよう。
俺は簡単に着れるチェニックと、ズボンをさっさと着込む。
その途中で寝室にローズが顔を覗かせる。
「王室の執事の方がいらっしゃっていますが。」
「うん、聞こえていたよ。すぐ行くからお茶の用意をして。いや、いらないか。呼びに来ただけだろうから。」
「いえ、用意します。」
「え?なんで?」
「アベル様、そのチェニックで王太子殿下がお待ちしているところに行けないでしょう?」
Oh…
我妻はよく気が付く。
「じゃ、とりあえず挨拶だけしておいてゆっくり着替えよう。じゃ、お茶よろしくね。」
「はい、承知しました。」
そして俺はチェニックのまま執事の者に赴いた。
「おはようございます。アベル様。」
「おはようございます。執事さん。いつぞやの娼館の時は世話になったね。」
「いえ、滅相もございません。アベル様のお陰で、殿下も立派な男性になりました。」
「一皮むけてね。」
「ええ、一皮むけて。」
俺も執事さんもニヤリと笑った。
「さて、執事さんがいらしたってことは、軍務閣下、いやここでは学校長か。が、学校にいらっしゃったのかな?」
「そのとおりで御座います。アベル様。」
「そうか、ではさっそくいかなくてはならないが、何分寝起きでね。この格好で行ったら殿下にも学校長にも叱られるだろうから、着替えてきますよ。妻がお茶をお淹れしますので、ゆっくりしてください。」
「恐れ入ります。」
「我妻の入れたお茶は美味しいですよ、それでは失礼。」
そう言って、寝室に俺は引っ込む。
ほぼ同時にローズが執事の対応を始めたようだ。
俺は学校の制服に着替え、執事とともに愛するローズと二人のための部屋を後にした。
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