306.アベル君と南の躍動。
306.アベル君と南の躍動。
「だから何がそれだがなんだよ。」
俺は要領を得ないオスカーに聞いてみる。
「ああ、それなんだが、南の連中が結託して、お前を学校から追放しろと言ってきた。」
「ふーん。それで?」
「それでだと?貴様のことだぞ。」
「いや、僕はそこまでしてこの学校に居る意味を持っていないし。」
「本気か?」
「騎士単体の思想や剣だったら、ヴァレンティアの爺ちゃんに座学と剣を習った方が断然いいと思うし。うちの爺ちゃんと父さん程の剣士はここに居るの?って聞いたら失礼になるから今まで聞かなかったけれどさ。」
「確かに、エドワード、ローランド両名に比肩するものはこの学校の講師や教官にはおらんと思う。しかしだ、ここを卒業せんと騎士として認められぬぞ?」
「それは無い。」
「なんと!?根拠はあるのか?」
「父さんがそれさ。爺ちゃんから剣は習っているし、この騎士団とずっと一緒に居たしね。10年前、パーシーの爺さんにそのことで詰められたらしいんだけど、ガウェンさんの擁護で事なきを得たそうだよ。」
「なるほどな。しかしだ、わざわざヴァレンティアからやって来て入学したのだ。退学を許さぬ者もおろう?」
「まあ、いるね。」
「母上のアリアンナ殿であろう?」
「ご明察だな。」
「ならば!」
「でもさ、宰相御令嬢だった人だぜ?しかも合理的判断を即時迫られる、冒険者でもあった。政治的面倒を取るか、学校に居座るか?それを問われたとき、母さんはどちらを取るかなんて自明だろ?」
「うーむ、で、あるが、ここで貴様がおめおめ引き下がっては、残された北の者たち、東西の者たちが南の者たちの圧力に耐えられないかもしれない。」
「それは、各人の責任だろう?僕の関与するところではない。」
「何故貴様はそこまでドライなのだ!ヴァレンタイン辺境伯領は北の中心と言っても良いのだろう?」
「読んで字のごとく、辺境だよ。中心じゃない。確かに商売や産業は他領より有るから、儲かっているけどね。」
「しかしだ、貴様の家は寄り子の数も大きい、この国随一と言っていいのではないか!」
「あまり怒鳴るな。貴族用寄宿舎と言っても壁は薄いのだ。皆聞き耳を立てているだろうさ。」
「しかし!」
「確かにノヴァリス王国随一かも知れんが、リック先輩をかばった時のとおり、互助会という面も大きい。政治的結社のような側面はないさ。政治結社なぞ作ったら、それこそ王家に対して不敬に当たるだろ?」
「ぐぐぐぐ」
オスカーは歯を食いしばり、声を出せなくなった。
仕方ねぇな。ここであまりオスカーを詰めすぎて南の連中の良い様にさせると、こいつの立場も危ういか。
「オスカー、お前にこの件に関して何か収める案でもあるのか?」
俺は率直に解決案に対して聞いてみた。
「ない。貴様が考えると思っていたからな。」
バカなのか?いや、そのまんまだな。
「お前さ、僕がそんな答えで納得すると思う?」
「思わん。しかし、貴様が考えるほかない。なぜなら、貴様が切っ掛けなのだから。」
なんだよ、その極論。
「分かった。僕が切っ掛けならば、やはり僕が出ていくしかあるまい。」
「駄目だ!そのような事はさせん。させられん!」
「だからなぜだ。」
「私の家族に袋叩きにされてしまう。」
主にオリビィにだろ?
「それはオスカー、お前が対処するしかないだろう?お前の家族の問題だ。」
「ウグッ!」
ウグじゃねぇ
まったく当てにならん奴だ。
しかしさすがにこのままというわけにはいかないよね。
「まあ、僕に対して、何が気に食わなくて、どうすれば収まるのか聞かなくてはなるまい。向こうのリーダーは誰だ?」
「ジーナだ。ジーナ・サンタグレース。」
「あの女かよ。ルーカとやらどうした?」
「貴様に殴られて、自信を無くして自室に引きこもっている。」
「マジかよ。元はと言えば、あいつが僕を殺そうとしたからだろう?」
「ああそうだ。完全な逆恨みだな。あと、没落貴族のジーナが学校でいかに名声を得るか。アベル、貴様を蹴落とすことが出来れば、あやつは南で輝くことが出来るのであろうな。」
オスカーめ、この期に及んでようやく政治家の様な物言いをしやがって。
「ならば簡単じゃないか。」
「む?どうするというのだ?」
「お前が嫌だって言えばいいんだよ。」