305.アベル君とひと騒動。
305.アベル君とひと騒動。
バーン!
という派手にドアが開く音と共に
「アベル!居るか!!」
はい、案の定オスカーでした。
「死ね!」
「ガタン!」
俺は叫び思わずオスカーを窒息させ、ドアの前で気絶させてしまった。
だってそうだろ?
これから良い雰囲気で、セ…いや、夫婦の営みをして、終わったら二人で食事をしようってところだったのに。
そうしたら、あのノンデリ王太子の野郎!
しかし、ドアの前でぶっ倒れているオスカーをそのままにするわけにもいかず、部屋の中に引っ張り込んで、ソファに座らせる。
「王太子殿下ではありませんか。」
部屋の隅でそそくさと着替えていたローズが、リビングに来て低く呻くように言った。
「うん、大丈夫だからローズはお茶の準備だけしてくれる?」
「はい、承知しました。」
俺の言葉を受け、ローズはお茶の支度へ行った。
ローズを見送ってから、オスカーを見据える。
「まあ、問題はないはずだが、一応ケアくらいはしておくか。」
俺は魔力操作でオスカーの頭部を酸素で充満させてやる。
窒息で時間が経つと、脳細胞が重篤な被害を受けるともいうしね。
こいつなんて、生まれた時から重篤だろうけどな!
あの政争の権化のような狸と狐から、よくこんなもんが産まれたものだよ。
「ん、ん」
こ奴め、気が付きおったか。
「ここは?」
「俺の部屋だ。」
「ああ、そうか、アベルの…アベル!!貴様!俺のことを気絶させたな!」
「当たり前だ。人の部屋に先触れはおろかノックもせずに押し入ろうとするような者は、強盗か強姦魔か王太子くらいしかおらんからな。」
「前者二つと一緒にするでない!」
「一緒にされたくなければ、夫婦水入らずの甘い時を邪魔せんことだな。そんなことだから、両陛下のあられもない姿まで見ることになるのだぞ?」
「それはやめてくれ。今思い出しただけでも赤面してしまう。」
「恥ずかしい思いをしたのはお前ではなく両陛下だぞ、オスカー。」
「だから、止めろと申しておる。そうか、そうだな。親だろうが、臣下だろうが、立ち入れぬ場所はあってしかるべきであった。すまぬ。」
へぇ、謝れるようになったねぇ。偉い、偉い。
「承知いたしました。謝罪は受け取りましょう、殿下。」
「その敬語もやめろ。何を企んで居る、怖いではないか。」
「で、なんだ?」
俺が切りだしたところに、ローズがやって来て
「失礼いたします。」
そう言って、テキパキとお茶を淹れていく。
「ローズ殿と申されたか。この度の不調法、許してくれ。」
そう言ってオスカーが首を垂れる。
俺にもはなからそうしろよ。
しかし、王太子に謝られたローズは恐縮するわけだ。
「お止めください、王太子殿下。私は平民の身、殿下に頭を下げられるような出自の者ではございません。どうぞ、頭を上げて下さいまし。」
もうローズは必死。
そりゃそうだ。
建築作業従事者の親父さんと、内職しながらローズの下の兄弟4人を育てているお袋さんのもとに、長女として生まれたローズが、俺の妾になったとはいえ、王太子に頭を下げられる。
こりゃね、他の貴族が見たら、無礼者の誹りを受けるかもしれない。
だから俺がここらへんで口を挟もう。
「オスカー、頭を上げてやってくれ。ここは僕達だけだからいいが、他の貴族が居たら、ローズが不敬により斬首されかねない。」
俺がこう言うや否や、バッ!っと、オスカーは顔を上げ
「なんと!そこまでの大事になるというのか!」
「平民と王家との差はそれだけ大きいものなのだよ。」
俺の言葉を聞いたオスカーは
「うーん。」
と、うなっていた。
「だから、本心は謝りたいことでも、王家の者、貴族の者は人前で謝ってはダメだ。人前では横柄な態度が優しさだと思ってくれ。そうでないと、平民の命は容易に消える。」
「難しいものだな。人の上に立とうとなど思ってもおらぬのに、周りはそうとは見ずに、自分が良かれと思った行動が、人を殺めてしまうとはな。」
「でもな、オスカー、」
「極端に受け取るなであろう?アベルの言うことくらい少しは分かってきているのだ。」
「そうだ、極端に横柄でなくていい、頭を下げない程度で良いんだ。逆に小さなことに対してのお礼などは、器の大きさから美談にまでなる。まあ、そんなの関係ない人達もいるがな。」
「ほう、それは誰だ?」
「オスカーのご両親さ。」
「父上と母上か。」
「そうだ、トップだからな。自分の行いは間違いではない、と言うだけだ。あとはうちの爺ちゃんの小言を聞くだけだろうさ。」
「ハハハ、宰相の小言か。」
「よし、もういいかな。ローズごめんね、ありがとう。下がって。」
俺がそう言うと、いまだ恐縮していたローズもハッとした顔をし、奥の部屋へと引っ込んで行った。
「で、なに?」
俺は飾らずに聞いた。
「それだ!」
それだじゃねーよ。
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本作は長編となっています。
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