304.アベル君と寄宿舎生活。
304.アベル君と寄宿舎生活。
模擬戦以来、獣人君は俺を見ると相手をしろと詰め寄ってくる。
「ヴァレンタイン!相手をしろっ!!もう私はあんな汚い手で無様な負け方はしない!」
と、俺を見つけると、所かまわず大声で叫び、自分の負けを吹聴している。
俺は都度逃げているけどね。
面倒くさいもん。
俺の相手なんてしていないで、女の子とでも遊んでりゃいいのに。
人よりきれいな顔をしているんだからさ。
陳腐な言葉を使えば、ミステリアスで中性的な容貌とでも言いましょうか。
だから女子にはかなり人気だ。
俺?俺は悪目立ちが過ぎているし、ローズを連れているってのも知られているから、キャーキャーは言われないよ。
たまにどこぞの伯爵令嬢とかが、一応粉掛けにはたまに来る。
うちは儲かっているし、有名だからね。
パオロやフランカたちと馬鹿話したり、獣人君から逃げたり、オスカーの面倒ごとを避けたりと、俺の学校生活は中々忙しいのである。
たまにフランカから
「騎士学団の幹部会に顔を出してください。殿下やテオドールさんから私が叱られるんですから。」
とか言われるが、知ったこっちゃない。
南の連中がまた絡んできたら、それこそ面倒だもんね。
そんなことより、俺はねローズと過ごす時間の方が大事なの。
わかる?
前世との最大の違いは、愛し愛される存在が居るということだ。
祖父、両親、姉、使用人たち。
皆、大切に俺を育んでくれた。
その中心に居たのがローズだ。
だからね、放課後はさっさと寄宿舎に帰るのが吉なのさ。
「ただいま。」
「おかえりなさいませ。アベル様。」
俺が寄宿舎の部屋を開けて入ると、ローズは出迎えてくれた。
「いつもながら、いつ入ってくるか良く分かるよね。」
「アベル様の足音なら間違いません。」
「さすが、我がパーティーのスカウトは違うね。」
「それだけじゃありませんけどね。」
「ふーん、そうなんだ。」
ずっと一緒だったから、それが答えなんだろう。
「ここ最近、ずっとお帰りが早いですね。」
「そうかな?」
「そうですよ、入学したては騎士学団の会合とか、お友達と遊びに行ったりとか、いろいろあったじゃないですか。」
「そうだね。でもそんなことより、ここでローズと一緒に居る方が俺にとっては有意義なんだよ。」
「そ、そうなんですか?」
顔を赤らめ答えるローズに
「そうなんです。」
と、ストレートに答えた。
甘々だろ?
もっと甘々にしてやろうか、ハッハッハッハ
俺はローズの手を取り、引き寄せそのまま二人でソファに座る。
「アベル様、夕食の支度をしないと。」
「そりゃ大変だ。でも僕は今この手を放したくはないんだ。ローズ、君もしっかり握っているしね。」
「あっ!」
ローズはそう言うと、真っ赤になった顔を俯き隠す。
「まあ、夕食が少し遅くなったくらいいいじゃないか。」
「でも、変な時間に洗い物の音など立てたら、他の部屋の方々にご迷惑かと。」
「なに、クレームが来たら僕が対応するさ。ローズは安心して、部屋の中の仕事をしてくれればいい。」
そしてローズの肩を抱き引き寄せ
「こうやっていられるのも、ここにいる三年間だけだ。素のアベルとローズでいられるのはね。だから、こうして二人でいる時くらいは、お互い甘えてもいいと思うよ。」
俺の言葉を聞いて、ローズは何か思うことがあったのだろう、真剣な目をしたあと少し俯いた。
「わかりました。ヴァレンティアに帰れば、こんなふうに過ごすのもままならなくなりますからね。」
「うん、だから今はそう言うことも忘れて二人で居ようよ。」
「はい…」
そして俺達は静かに唇を重ねた。
ラブコメなら「バーン!」ってドアが開いて「アベル居るか!!」なんて、オスカーあたりが邪魔しに来るところなんだが、今のところ、その様子はない。
では、ここからは大人の時間ということで。
バーン!!
嘘だろ!