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300.アベル君と剣術授業。

300.アベル君と剣術授業。




 やべぇ、オスカーとの話に埋没してしまった。

 アイツの教育どうなってんだろうね。


 俺が教育してどうすんだよって。

 いかん、いかん、またオスカーの話になってしまった。


 そうそう、授業の話だった。

 今は剣術の授業だ。


 今は素振り。

 踏み出して降ろす、踏み出して降ろす。


 この繰り返しだ。

 俺の隣にはパオロとフランカがいる。


 どちらも腕に自信があるぶん、素振りも綺麗だ。

 振り上げてから降ろしてが綺麗だし、降ろした後の切っ先がぶれない。


 流石だ。

 使っている剣は木剣じゃなく、自分たちが持ってきた剣でやっている。


 流石に皆身体が出来ているからね、

 相手と剣を合わせる稽古じゃない限り、ある程度重さのある剣じゃないと意味がない。


 ああ、俺はミスリルの剣じゃないよ。

 普通に鋼を叩いて作ってある剣だ。


 ただでさえ目立っちまったのに、あんなミスリルの剣を振り回していたら、更に悪目立ちしそうだ。

 それにある程度重さのあった剣の方が、身体が出来ていくからね。

 

 で、俺たちは並んで稽古をしているわけだ。

 パオロは入学以来、まあ、仲の良い友達と言っていい。


 フランカは、騎士学団幹部の同級生が俺しかいないし、平民で騎士学団幹部に選ばれてしまったので、同じ平民の生徒とギクシャクしてしまうらしい。


 まあ、貴族と平民、この学校内でカーストはないと言っても、染みついたものはなかなか取れない。

 俺はどちらの気持ちも良く分かる。


 前世は平民、今は貴族だ。

 そんなもんだろうと俺は思えるが、切り替えが出来ない奴ってのが大多数だ。


 俺の隣にいる大男もその一人。

 「しかし、フランカとやらは平民の癖になかなかいい剣筋だ。俺には敵わんがな。」


 フランカはパオロのその言葉を聞いて、ひきつった顔をしている。

 フランカ自身も階級が染みついているのだ。


 だから言い返せない。

 すると、必然お鉢が俺に回るわけだ。


 面倒くさい。

 「おい、パオロ。その言い方はないんじゃない?俺が見るにどちらの剣も甲乙つけがたいがな。どちらも切っ先が綺麗だよ。鍛錬が良く見える。」


 「むっ!アベル、お前は俺の剣がその平民と同じだと言うのか。」

 「パオロ、だからさ、その平民てのを止めろよ。ここでは階級はないって言われただろ。それにここを卒業して、騎士爵を陞爵すれば立派な貴族なんだからな。」


 「お前は平民の味方をするのか?」

 「パオロ、僕たち貴族は平民のお陰で飯を食っているんだぞ。」


 「どういう意味だ!」

 「どういう意味も何も、そのまんまさ。平民たちが領内で働いてくれる。そして僕たちは税をもらう。だから食える。僕たちが平民に出来ることなんて、領内で彼らを守ることくらいさ。用心棒だよ。」


 「アベル、お前自分の家の誇りを汚す気か!」

 「んなわけないよ。ただ誇りだ家名だで飯は食えんのだ。わかるか?うちの爺ちゃんも父さんも領民が暮らしやすく、働きやすくなるために、領内の整備を怠らない。何故かわかるか?」

 「そんなもんは、領民に好かれようとする気持ちがあるに違いない。」


 「まあ、それも大事だ。嫌われて税を出し渋られたら、それこそ食いっぱぐれだからな。」

 「では何があると言うのだ。」


 「自分で考えろよ。まあ、お前が言った好かれるのは大事だ。しかし、まず働く意欲を持たせなきゃいかん。健康で家族と一緒に満足に食えてちゃんと働く。これが無いと、領民は働かない。ひもじい思いや、病気を患ったり、家庭に何か不安があるとなおのことだ。」


 「う、うむ。」

 「そして領主が領内を整備し、領民の不安を少なくすれば満足に働ける。商売の売り上げや、雇われた賃金も多く貰えるだろう。そうすればどうなる?」


 「税をより払えるか。」

 「そういう事だ。人気も大事だがな、まずそれだよ。これが出来ていれば、より税を払ったとしても人気が落ちることはない。むしろ上がるさ。そしてより多く貰った税で、またよりよく領内を整備する。そうすると、引っ越してくる人間も多くなるだろう。領内が賑やかになれば、新たな商売などが始まり、また潤う事になる。循環なんだよ。金はさ。」


 「こら!!貴様ら何してる!!!」

 教官が俺たちが話し込んでいたところを発見し、怒声を上げる。


 俺たちは、それを見てシレっと素振りを再開した。

 「お、すっかり話し込んだな。」


 俺がそう言うと、

 「なぜ貴族だ平民だの話が、領地経営になるのだ。」


 「まだ言ってんのか、俺たちが働かないと、領民も働いてくれない。一蓮托生、呉越同舟だ。いや、領民は俺たちを見捨てることが出来るから、まだいいかな。」


 「領民が我々を見捨てるだと!?」

 パオロがそう言った途端、俺の頭に衝撃が加わり、身に火花が散った。


 思わず頭をさすると、鬼の形相の教官が俺たちを見ていた。

 「バカ者ども!修練場を二十周だ!!」


 うわ、マジかよ。

 「はい。」


 俺はそう言って走り出した。

 パオロも頭をさすりながら渋々走り出す。

 

 「アベル、お前が悪いんだぞ、余計なことをぺらぺらと。」

 「パオロが領地の経営の仕方を知らないのが悪いんだろ。」


 「なんだと!」

 「貴様ら!!あと十週追加だ!!」


 「はーい。」





 そこからは黙って二人で走るのだった。

 「私は結局ぼっち!?」







読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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