表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
309/364

296.アベル君と王城の食卓。

296.アベル君と王城の食卓。




 今、俺はどうも場違いなところにいるわけだ。

 王、王妃、王女、俺。


 この四人が食卓を囲んでいる。

 王が上座。


 こりゃ当たり前。

 王から見て左手に王妃、その隣に王女が座っている。


 俺は、王のすぐ右手。

 なぜ?


 本来、客と言えど、家臣はもっと王家の連中から離されるはずだ。

 聞かないのも気分が悪い。


 「用意して頂いて何なのですが、私がここの席というのか?」

 俺がこう聞いてみると、王が口を開く。


 「なに、気にするでない。なあ王妃よ。」

 「ええ、気にする必要はないわ。」


 「それはどういう…」

 「うん、どうせアベルも親戚になるのだからな。」


 王が楽しそうな声で俺に言った。

 ああ、やっぱりそういうつもりか。


 ウィリアム爺ちゃんに、

 「爺ちゃんも一緒に食べていくの?」


 って聞いたら、

 「儂は帰るよ。アベルはゆっくりしていきなさい。」


 と言って、さっさと帰ってしまった。

 このためのセッティングが出来ていたのだろう。

 「親戚になるとは、また恐れ多いことをおっしゃいます。」


 とりあえず俺はとぼけておく。

 「なに、まだ身構えるな。食事はまだ始まっておらぬ。」


 王の方は余裕だ。

 チクショーメー。


 しかし、俺の斜め前に座るオリビア王女は、俺の顔も見ずに、まっすぐ前を見ている。

 まあ、俺が宿題出してしまったからな。


 それが出来ないうちはって考えているんだろう。

 王妃もそれが分かっていて、これかよ。


 この人も綺麗な顔をして、たぬきなんだからなぁ。

 そうこうしているうちに、メイドの方々が配膳を始める。


 実家の料理は、ジョージが切り盛りしてくれて、大変美味しいんだけど、やはり豪華さという面では、ここの料理には敵わない。

 まあ、当然だが。


 王家より贅沢しているなんて言われたら、周りから何を言われるか分からない。

 その豪華な料理が目の前に並べられた。


 「では頂こう。」

 そう言って王がカトラリーを持つ。


 そうして、王妃も王女も食べ始める。

 それを見てから俺も料理を食べ始めた。


 「ローズ様はお元気でおられるの?」

 いきなり弾が飛んできた。


 「王女殿下、ローズは平民です。敬称は不要です。ご質問に関して言えば、元気ですよ。」

 「あら、お元気ならば良かったわ。アベル様のお内儀ですもの、敬称はつけさせていただきます。」


 「それは恐れ多いことでございます。王女殿下。」

 「そのようなお言葉は必要ありませんよ、アベル様。」

 「王女殿下、もう一つ言わせていただければ、私は臣下でございます。私にも敬称は必要ありませんので、何卒呼び捨てくださいますよう。」


 俺たちの攻防を、王は楽しげに、王妃は知らんぷりしながら、含み笑いしている。

 ええい、分からん娘だ。


 俺は王家なんかと縁を結びたくないんだっての。

 なんたって、めんどくさいじゃん。


 領地経営だけでも面倒なのに、中央で何かあればすぐ呼び出される立場なんて、なりたくないんだよ。

 口に出して言いたいが、口に出して言えないのが辛い。

 

 「いえ、私の呼びたいように呼ばせていただきます。」

 「それでは他の臣下の方々の目があります。なにとぞご容赦頂けますよう。」


 「そのようなことを気にする必要はないのですよ、アベル様。不審に思われる方々に、私が説明すればいいだけですから。」

 「いえ、そういう問題ではなく。」


 「ではどういう問題だと仰りたいの?」

 「そのようなことで、王家の御威光を振り回すのは如何かと思いますが。」


 「別に私が振り回しているのではございません。周りが勝手に振り回されているのでございます。分かっていらっしゃるでしょう?アベル様だって。」


 まあ王家の威光ってもんはそういうもんだからな。

 自分たちはなんも思わなくても、勝手に周りが恐れ入る。


 さて、この口の回るお転婆娘を、どうしてくれようか。

 「なおのことそのような事をしてはいけないのです。王女殿下もお判りでしょう?ご自分が何もしなくても、少しのことをしただけで、臣下も国民も恐れ入るのです。気づきながらなさる行為ではありますまい。」


 「私はアベル様と親しくお話したいだけなのです。お兄様には親しくしていらっしゃるではありませんか。お兄様のことをお名前で呼んでらっしゃるのでしょう?私も、もっとアベル様と身近に居たい。親しく呼び合う仲になりたいのです。」


 ほら、お前ここで断って、目の前の娘を泣かせてみろ。

 そこに座ってほくそ笑んでいる二人が牙をむくぞ。


 あの二人はそれを待ち望んでいるんだからな。

 クソ、仕方ないか。


 「それではオスカーと同じように友達からでいいかな?オリビィ。」

 「ああ、アベル様…」


 王女は感極まったように涙を流し始めた。

 そこまでか?


 女心はわからん。

 そこへ、王妃が自分のナプキンで王女の涙を拭きながら


 「良かったわね。アベルと仲良くなれて。」






 そう言って王女の背中をさすった。




読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ