296.アベル君と王城の食卓。
296.アベル君と王城の食卓。
今、俺はどうも場違いなところにいるわけだ。
王、王妃、王女、俺。
この四人が食卓を囲んでいる。
王が上座。
こりゃ当たり前。
王から見て左手に王妃、その隣に王女が座っている。
俺は、王のすぐ右手。
なぜ?
本来、客と言えど、家臣はもっと王家の連中から離されるはずだ。
聞かないのも気分が悪い。
「用意して頂いて何なのですが、私がここの席というのか?」
俺がこう聞いてみると、王が口を開く。
「なに、気にするでない。なあ王妃よ。」
「ええ、気にする必要はないわ。」
「それはどういう…」
「うん、どうせアベルも親戚になるのだからな。」
王が楽しそうな声で俺に言った。
ああ、やっぱりそういうつもりか。
ウィリアム爺ちゃんに、
「爺ちゃんも一緒に食べていくの?」
って聞いたら、
「儂は帰るよ。アベルはゆっくりしていきなさい。」
と言って、さっさと帰ってしまった。
このためのセッティングが出来ていたのだろう。
「親戚になるとは、また恐れ多いことをおっしゃいます。」
とりあえず俺はとぼけておく。
「なに、まだ身構えるな。食事はまだ始まっておらぬ。」
王の方は余裕だ。
チクショーメー。
しかし、俺の斜め前に座るオリビア王女は、俺の顔も見ずに、まっすぐ前を見ている。
まあ、俺が宿題出してしまったからな。
それが出来ないうちはって考えているんだろう。
王妃もそれが分かっていて、これかよ。
この人も綺麗な顔をして、たぬきなんだからなぁ。
そうこうしているうちに、メイドの方々が配膳を始める。
実家の料理は、ジョージが切り盛りしてくれて、大変美味しいんだけど、やはり豪華さという面では、ここの料理には敵わない。
まあ、当然だが。
王家より贅沢しているなんて言われたら、周りから何を言われるか分からない。
その豪華な料理が目の前に並べられた。
「では頂こう。」
そう言って王がカトラリーを持つ。
そうして、王妃も王女も食べ始める。
それを見てから俺も料理を食べ始めた。
「ローズ様はお元気でおられるの?」
いきなり弾が飛んできた。
「王女殿下、ローズは平民です。敬称は不要です。ご質問に関して言えば、元気ですよ。」
「あら、お元気ならば良かったわ。アベル様のお内儀ですもの、敬称はつけさせていただきます。」
「それは恐れ多いことでございます。王女殿下。」
「そのようなお言葉は必要ありませんよ、アベル様。」
「王女殿下、もう一つ言わせていただければ、私は臣下でございます。私にも敬称は必要ありませんので、何卒呼び捨てくださいますよう。」
俺たちの攻防を、王は楽しげに、王妃は知らんぷりしながら、含み笑いしている。
ええい、分からん娘だ。
俺は王家なんかと縁を結びたくないんだっての。
なんたって、めんどくさいじゃん。
領地経営だけでも面倒なのに、中央で何かあればすぐ呼び出される立場なんて、なりたくないんだよ。
口に出して言いたいが、口に出して言えないのが辛い。
「いえ、私の呼びたいように呼ばせていただきます。」
「それでは他の臣下の方々の目があります。なにとぞご容赦頂けますよう。」
「そのようなことを気にする必要はないのですよ、アベル様。不審に思われる方々に、私が説明すればいいだけですから。」
「いえ、そういう問題ではなく。」
「ではどういう問題だと仰りたいの?」
「そのようなことで、王家の御威光を振り回すのは如何かと思いますが。」
「別に私が振り回しているのではございません。周りが勝手に振り回されているのでございます。分かっていらっしゃるでしょう?アベル様だって。」
まあ王家の威光ってもんはそういうもんだからな。
自分たちはなんも思わなくても、勝手に周りが恐れ入る。
さて、この口の回るお転婆娘を、どうしてくれようか。
「なおのことそのような事をしてはいけないのです。王女殿下もお判りでしょう?ご自分が何もしなくても、少しのことをしただけで、臣下も国民も恐れ入るのです。気づきながらなさる行為ではありますまい。」
「私はアベル様と親しくお話したいだけなのです。お兄様には親しくしていらっしゃるではありませんか。お兄様のことをお名前で呼んでらっしゃるのでしょう?私も、もっとアベル様と身近に居たい。親しく呼び合う仲になりたいのです。」
ほら、お前ここで断って、目の前の娘を泣かせてみろ。
そこに座ってほくそ笑んでいる二人が牙をむくぞ。
あの二人はそれを待ち望んでいるんだからな。
クソ、仕方ないか。
「それではオスカーと同じように友達からでいいかな?オリビィ。」
「ああ、アベル様…」
王女は感極まったように涙を流し始めた。
そこまでか?
女心はわからん。
そこへ、王妃が自分のナプキンで王女の涙を拭きながら
「良かったわね。アベルと仲良くなれて。」
そう言って王女の背中をさすった。
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