293.アベル君と恋愛結婚。
293.アベル君と恋愛結婚。
「姉は仕事にしか今は興味がありませんよ。」
「分かっておる。しかし、あれだけの器量良しだ、このまま行き遅れるのも惜しかろう?引く手あまたに違いない。」
「陛下、もしかして姉をさっさと結婚させて、オスカーをあきらめさせようという魂胆ですか?」
「宰相よ、お主の孫は頭も口も五歳の頃より回りよる。武家のヴァレンタイン家より、お主たちの血の方が濃いのではないか?」
王がいったん話をそらす。
何か魂胆があるのかね?
「それは有りますまい。ヴァレンタイン家もあれだけの領土と資源を、アベルの改革前から統治し続けてきたのです。武家だからなどと言う考えではいけませんぞ。先代の頭の良さは陛下の方がよく知っているはずです。家の婿殿も、A級冒険者たちを率いるほどに、立派な戦略家でございましょう。」
まあ、父さんはヘロヘロになるまで領地の仕事にこき使われていたけどな。
「まぁ、それは知っておるがな。しかしそれをしてアベルの才は宰相とクリス夫人に向いているのではないかと思っただけだ。」
どうだろうね、比べたこともなかったな。
十年前、ウイリアム爺ちゃんとクリス婆ちゃんが俺を文官にさせ、更には宰相もしくは大臣クラスにさせようとしたのは知っているけどさ。
「まあ、今はその話は良いんじゃないですか?結局陛下たちは私に何がお望みで?」
「遊び相手と、今回の様な適度なガス抜き。今はこれだけだな。」
端的な答えがやって来た。
「それは私じゃなくても宜しいのではないでしょうか?まして何を抜くにしても、私がべったりついているのもどうかと思いますし。」
「それはそうなのだがな、今この国の貴族の若者の中で困った風潮があるのだ。」
「なんでしょう?」
「それは恋愛結婚こそが最良という風潮だ。」
「そうなんですか?」
「そうなんですかではない!お前も十分関係している事なのだぞ。」
ああ、そういうことか。
「うちの両親のことですか。」
「そうだ、A級冒険者として名をはせた男女が、恋愛し結婚。ここまではよくある話だが、辺境伯嫡男と、宰相令嬢だ。そして生まれてきた子供二人が至宝と呼ばれるようになる程の出来だ。皆若い連中はあこがれるのだ。そのような出会いがあり、そのような結婚があると。親や寄り親の縁談で決められる、結婚だけではないとな。」
まあ、その気持ちはわからんでもない。
俺は前世のモラルや常識があるから、恋愛で良いんじゃね?って思うけど、結婚が政治に絡んでいるこの世界の貴族の間で、恋愛結婚が常識なっては困るってのもわかる。
で、もう一つくらい、王の真意が有るだろう。
「それで、王太子殿下と姉が恋愛結婚されては困るわけですね。」
「そのとおりだ。」
「王女殿下はどうなさいます?王妃陛下は私に嫁がせたいようですが。」
「仮にそうなれば、辺境伯嫡男と、王女の縁談だ。周りは普通の縁談だと受け取るだろう。特殊ではあるがな。
「家臣のもとへ王女が輿入れする。確かにそれは特殊です。それ自体も鑑みても、王太子殿下と姉が恋愛で結婚するのはまずいと見ていらっしゃるわけですね。」
「そうだ、王太子と王女がともに辺境伯との血筋と結婚すれば、良しと思わぬ連中も多いからな。」
「主に南の。」
「それは言わぬ。」
「それではぶっちゃけちゃえば、王太子殿下を姉から遠ざければよろしいのですね?」
「出おったな、アベルのぶっちゃけが。まあそのとおりだ。お主と話をしていると、話が早くて助かる。下手な文官など何度話してもわかってくれぬからな。なあ、宰相。」
「そのような者もおることは確かですが、あまり部下のことを悪く言うものではないですぞ。」
「うむ、そうであったな。しかし、アベルよ。このまま城の官僚やらんか?いずれは大臣だぞ。」
「私は辺境伯嫡男ですよ。まして父は庶子なんて作りませんし。そんなことがあったら、母が黙っていませんから。それに…」
「それに何だ?」
「辺境伯領の戦力が減っても良いなら。」
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