292.アベル君と王家という名の家族。
292.アベル君と王家という名の家族。
部屋の扉が開く。
そこには三人ほどの人影が立っていた。
王、王妃、そして宰相閣下だ。
俺は起立して出迎えた。
「良い、座って茶でも飲んでおれ。」
そう言って王は俺を座らせた。
そして各人好き好きな場所に座ると、王が口を開いた。
「授業中に急な呼び出しで済まなかったな。」
「いえ、とんでもありません。王家に忠誠を誓うものとして、当たり前のことです。」
「うむ、そうか。」
王はそう言うと、片手を上げた。
それを見た残ったメイドが、お茶の支度をし始める。
なんだ、このために残っていたのか。
お茶が行き渡ったところで、王がまた口を開いた。
「もう一つ謝らなければならない件がある、アベル。」
これが主題だ。
「オスカーを大人にしてくれたそうだな。」
そういうふうに王が言うから思わず、
「相手は僕じゃないですよ?」
と、言ってしまった。
「当たり前じゃ。」
そこへ宰相閣下の突込みが入った。
まあ、俺だって同人誌のネタにはなりたくないですよ。
「相手は分かっておる。娼館のナンバー2だそうだな。因みにその頃ナンバー1はおぬしの相手をしておったらしいの?」
「はい、リラの紹介でしたので。」
執事さんが俺たちに付いていたんだもの、それくらい把握しているよね。
まして公共施設だから、客のデータは城には筒抜けだ。
「そうか、リラの紹介か。アベル、リラとうまくやっているそうじゃないか。」
王の顔がちょっと厭らしくゆがむ。
このスケベ親父。
「ええ、お陰様で、仲良くやっています。しばらく会えないのが辛いですが。」
「もう一人の方は連れて来ているのであろう?王妃はもう会ったようだが。」
「ええ、可愛らしい狼獣人の子でしたよ。躾もしっかりしたものでしたし、ヴァレンティア家の者として、どこに出しても恥ずかしくはないでしょう。」
そう言ってローズのことを王妃は褒めてくれた。
「ただ、アベルがオリビィを邪険にするもので、オリビィが不憫で。」
うわ!なにそれ、ちゃんと周りの貴族を納得させるのと、父さんの説得をするってことで、抜け道作ったじゃんよぅ。
王族ってば、本当に狐か狸ばかりしかいないんだからな。
オスカーの純粋さはどこから来たのか。
「王妃殿下こそ意地悪です。私の立場を分かっていて悪戯を仕掛けなさる。」
「あら、私はオリビィのことを思って話しているだけです。もちろんアベルも可愛らしいですけどね。」
俺のこたぁ良いんだよ。
「で、私にお話とはどういった件でしょうか。」
俺は鬱陶しいから本題に入った。
「うむ、オスカーのことだ。手間を取らせたな。」
「いえ、殿下も色々大変そうだったので、ここで成人として一皮むけて頂けたらと思いまして。」
「うむ、一皮な。」
「ええ、一皮。」
「あなた方、顔が厭らしいですよ。」
王妃に怒られたわけだが。
「うむ、執事から言われてな。アベルが性教育をしっかり王家でやっれと言っておったと。」
「ええ、そのような感じのことは口にしました。」
「あの子も色々考えたらしいの。それで私たちと話がしたくて。」
「寝室に入ったわけですね。」
俺が言った途端、王妃がモジモジとした。
息子に濡れ場を見られたらそりゃモジモジするわ。
そして王は
「うむ。」
と、大きく頷く。
「それで私に何をしろと?」
俺はとりあえず要点を聞き出そうと質問をした。
「それがなぁ。我々も持て余しているというのが事実だ。」
「処理できるものをあてがえば?」
「オスカーの性格を考えると、のめり込むのではないかと思ってな。」
「次期正室候補はお決まりになられているのですか?」
この話は重要だ。
もし決まっているのなら、さっさと結婚させてしまえばいいのだから。
「候補はおる。しかしオスカーが首を縦に振らん。」
「何故です?」
「お主の姉の所為だ。」
ああ、それかぁ。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。