291.アベル君と謁見。
291.アベル君と謁見。
久しぶりに見た王は王らしく逞しくなっていた。
腹が。
エドワード爺ちゃんに怒られるぞ。
王妃は相変わらずお綺麗でした。
ウイリアム爺ちゃんの家へ、王妃と王女が一緒に凸しに来た以来だな。
確か王妃もエルフの血が入っているらしいから、長命なのかもしれない。
ん?俺はもしかして、この家族全員に迷惑を被っていないか?
やべぇ、ひょっとしなくても、こいつら良い様に俺を遣ったり、頼ったりしている。
玉座の隣にウイリアム爺ちゃんが笑っていた。
爺ちゃん、謁見に来てんだから、笑うなよ。
「ローランド・ヴァレンタイン辺境伯が嫡男、アベル・ヴァレンタイン、お呼びにより参上致しました。」
俺は慇懃に言う。
謁見だから、それは当たり前。
「よう参った。アベルよ。久しいな。」
「お久しゅうございます。陛下。」
「うん、アベルも成人になり、騎士学校に入学したのだな。時の経つのは早いことよ。」
「はい、自分でも、ここに一人で居ることに驚いております。初めて王陛下にお会いさせて頂いたのが、十年前でありますから。」
「そうか、あれからもう十年か。お主はちょくちょくここへは来ていたような気がしていたがな。」
来たけども!オスカーの解呪と、俺がスラムの一軒家を吹き飛ばした件で来たけども!
「その節は、ご迷惑をおかけして、面目もございません。」
「いや、過ぎた話だ気にせずとも良い良い。しかも今回はオスカーがまた世話になったようだな。」
来た!
「私めなどが王太子殿下のお世話をするなど、ある筈もないことですが。」
「うん、そうか。ちとオスカーのことでアベルに相談があっての。別の部屋で待っておれ。」
「はい、畏まりました。」
俺はその時初めて顔を上げその場から立った。
面を上げろと言わなかったのは、何かの意趣返しかな?
まあいい、とりあえず引っ込もう。
「それでは、失礼つかまつります。」
俺はそこで礼をし、振り返ろうとした。
そしたら、鈴を鳴らすような綺麗な声が俺を呼び止めた。
「アベル、時間が出来たらで良いのです。王女と十年前の様に遊んでやってくださいね。」
こちらもまだ諦めてないか。
「畏まりました。王妃陛下。」
俺はそう言って、一旦王妃の方に向き直り、お辞儀をしてから扉へと向かった。
扉の向こうでは、案内してくれた文官がまだ待っており、
「こちらにお出で下さい。」
と、言い、俺を連れて何処かの部屋へ行こうとしている。
あ、ここ知っている。
外部に音の通らない、密談専用の部屋じゃん。
こんなところに連れてきて、どんな話すんの?
こわーい。
「こちらにお入りください。陛下がいらっしゃるまでこの中でお待ちください。」
そう言って文官は俺が部屋へ入るが早いか、すぐに踵を返し消えていった。
部屋の中ではメイドさんたちがお茶の支度をしている。
「お客様は、こちらにお座りになって、お待ちくださいませ。」
メイド達を率いている偉そうなメイドが俺に言ってきた。
メイド長なんだろう。
マーガレットも、ローズたちの前では偉そうだもの。
それが役職ってもんだが。
「こちらをお飲みになってお待ちくださいませ。」
俺の前にお茶の入ったカップが置かれた。
「では、遠慮なく頂きます。」
俺はそう言ってカップに口を付けた。
「まあ、若い貴族の方が、挨拶をして下さってからお茶を飲んでいただけるなんて、とても嬉しい日ですわ。」
そう、メイド長らしき人が、満面の笑みで俺に言ってくる。
「そうですか?普通のことだと思いますけど。」
「そうでもないのですよ。お城にくるお客様は、たいてい緊張していらっしゃるから、私たちのことなど目に入りません。よほどヴァレンティアの至宝様は丹力がおありなのね。」
もうその呼び名も慣れた。
「丹力があるとかではなく、五歳の頃、このお城には何度も来ていましたから。両殿下からよく遊びに来いと請われ、裏口の方からも出入りをしていました。だからお城には慣れているのかもしれません。」
「ええ、存じ上げております。あの頃は美しくても可愛らしいお子様だったのに、今はより美しさはそのままに男性らしく逞しおなりになりましたね。」
「まだまだ、修業の途中で。そんな話を聞かれたら、祖父と父に笑われてしまいます。」
「ご家族が偉大ですと、そのためのご苦労もあるのですね。」
彼女は微笑みながら言った。
「ええ、偉大過ぎて困ります。」
俺がそう言うと、メイドさんはウフフと笑った。
「お出でになりそうですね、それでは失礼いたします。」
そう言って、メイドさんたちは俺にお辞儀をしてから一人を残し全員出て行った。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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