289.アベル君と王城からの呼び出し。
289.アベル君と王城からの呼び出し。
今回のことは不可抗力だったんだと、何とかオスカーをなだめ、オスカーが何とか気を取り戻し、その時は済んだ。
翌日、歴史の座学があった。
英雄王ノヴァリスから脈々と続く、代々のノヴァリス王。
それを覚えるんだそうだ。
アホなのか?
それで領地経営や、剣術がうまくなると言うのだろうか?
と、言っても歴史なんてもんはそういうものでね。
良いことがあったって話なら、見習いましょうね。
悪いことがあったなら、反面教師で、そういう轍は踏まないようにしましょうね。
それを学ぶものだからね。
だけど、代々の王の名前を憶えてなんになるってんだよ。
でも俺は、ロッティーと退屈しのぎに読んでいた本により、五十数名の代々のノヴァリス王は覚えているんだけどね。
前世の肉体なら覚えられなかっただろうけど、このアベルの肉体と頭脳はスペックが高いからな。
なんてことを思いながら、一応教師の話は聞いていた。
日本の学校と違って、今の俺の行いがヴァレンタイン家の権威に直結するからね。
気を遣っちゃうんだよ、俺。
そんなふわふわした気持ちで授業を聞いていたわけだが、教室の扉が急に開いた。
「ノヴァリス城から先触れが届いた。アベル・ヴァレンタイン居るか!?」
扉の前で怒鳴っているのは、何かの教師なんだろうか?
見た覚えはないが、雰囲気でそんな感じがする。
俺はその教師に向かって
「はい!」
と返事をし、起立した。
「迎えの馬車が来る。直ちに王城へ来るようにとのことだ。」
「恐れ入ります、先触れの署名はどちら様になっているのでしょう?」
だいたいわかるが、一応聞いてみた。
「宰相閣下だ。」
爺ちゃんか。
孫たちの痴態を笑いたいのかな?
困った人たちだよ、勉強中にさ。
「承知いたしました。校門の前で待っていれば宜しいでしょうか?」
「うむ、そのように取り計らいたまえ。」
「はい、承知しました。」
そう言って俺はその教師に頭を下げ、歴史の教師に、
「お聞きしたとおりの理由で、授業を抜けなければなりません。よろしいでしょうか?」
と、聞いてみた。
「宰相閣下の呼び出しを止めるわけにはいかんだろう。行きたまえ。」
一瞬渋い顔をした歴史教師は俺に言い放った。
「アベル、何があったんだ?」
俺の隣に座っていたパオロが興味ありげに小声で聞いてきた。
「ちょっとここで言うと、不敬に当たるから言えないかな。スマンね。」
そう言ってごまかした。
おそらくオスカーが両陛下の痴態を見たのが原因だとも言えんからな。
「では失礼します。」
そう言って俺が教室を出た途端に、教室内で大きなざわめきが起こる。
「学生たちはどこでも、どんな時代でも噂話は好きなんだな。」
そんなことを口ずさんで、寄宿舎にいったん戻った。
寄宿舎の俺の部屋に戻ると、ローズが洗濯物をたたんでいるところだった。
シャツを畳む途中で俺を見つけ、
「どうなさったんですか?」
と聞いてきた。
「実はね、王城から呼び出しがあった。下手をすると、今日は帰れなくなるかもしれないから、ローズに言いに来たんだ。」
「いずれあるとご隠居様が仰っておられましたが、急でしたね。」
「まあ、いろいろ物事が重なったんだろう。では行ってくるよ。」
そう俺が言うと、ローズはシャツをベッドの上において、俺のもとへ駆け出してきた。」
そして抱擁、ローズの頬をなでてからキスをした。
俺も父さんみたいなことをするようになったなぁ。
母さんとの行為を見せつけられて辟易としていたのは、もう遠い昔のようだわ。
陰キャだ非モテだと嘆いていたのは何処へやらだ。
しっかりこの容姿も受け入れて、自信を持った行動をしないとどこかでつまずくかも知れない。
まあ、目の前の人が悲しむようなことはするまい。
100パーセントと言えないところが辛いんだけど。
「じゃあ、行ってくるね。」
「はい。」
そう返事をローズがすると、目をつむり、顎を上げる。
そんなポーズを取られたら、応えなきゃならんだろう、行かねばならんのに。
まあ、遅れてもいいけど。
ローズのご要望にお応えして、軽くキスをし抱いていた腕を放す。
「王城からの馬車が来るからね。」
そう言ってなぜか俺は言い訳をする。
そのことに気づき、咳ばらいを一つ行い
「では、行ってくる。」
と、ローズに背中を向けドアを開くと
「行ってらっしゃいませ。」
そう、ローズの声が聞こえた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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