288.アベル君とオスカーの事情。
288.アベル君とオスカーの事情。
「し、しかしだ、アベルが言った情と言うものはどうなのだ。父上と母上の上にその感情は存在し得るのだろうか?」
「王妃陛下は怒ってはおらず、それを受け止めていらっしゃるのだろう?そういう事だ。十年前の僕の感想で申し訳ないが、王陛下と王妃陛下の間に、そのようなわだかまりは無いように思えた。息子であり、一番近くで見ているお前の感想はどうだ?オスカー。」
「だから不思議だったのだ。そのようなそぶりも何もない。それが父上と母上の情と言うものなのだろうな。」
「王妃陛下はそれを承知で嫁いでいらっしゃった。王陛下もご自分の務めは百も承知だ。その気持ちを胸に忍ばせているお二人だから、うまくやっておられるのだろう。」
「そうか。」
そう言ったオスカーの顔には、少しスッキリとした清々しさがあった。
「しかし…」
俺がそう言い及んでいると。
「しかし、なんだ?」
オスカーが聞いてくる。
「いや、こういう教育は、僕がするんじゃなくて、王家でやってくれんもんかなって思って。執事さんお願いしますよ。」
「大変申し訳ありません。近々の課題とさせて頂きます。」
俺の声を聴いた執事さんが、丁寧な返事をした。
その横でオスカーが恥ずかしそうな顔をしていた。
「どうしたオスカー、議題にしてくださるそうだぞ。良かったな。」
俺はオスカーの肩をポンと叩いた。
その手首をオスカーがつかみ
「おい!アベル!それがどういう事が分かっているのか!」
「わかるさ。王家の議題に上がる。つまり、王家とその周辺には詳らかにされるってこと…oh…」
「ohではないわ!どうしてくれる!」
「ん~、どうもしない。」
「なんだと!」
「これは、王陛下と王妃陛下が責任を持つべきものだ。両陛下はそれを怠り今回の状態になった。もっと言えば、オスカー自信が違和感を持っていたなら、もっと早く王家の中の誰かに相談すべきだったんだ。そうだろ?オスカー。」
「ぐっ!」
「でも、今の段階で自分の息子の精神状態を知れて、両陛下には良い機会なのかもしれないだろう?オスカーにとっても両陛下とよく話す機会が出来たのかもしれないじゃないか。これは現時点のお前自身にとっても、いい機会を得たんじゃないか?」
オスカーは俺の言葉に今ひとつ反応が悪い。
「王陛下がどんな気持ちで庶子を持ったのか。王妃陛下はそれを知りながら、どう飲み込み王陛下と過ごしているのか。そして何よりも、お前も未来にそうしなければならない事実を、両陛下がどうお考えになっているか、それらを皆で話す良い機会だと僕は思う。」
オスカーは王妃似の美しい端正な顔を俯きさせ、長いまつ毛さえも伏せていた。
ちくしょう、いい顔だな、こいつ。
職員さんがサービスしたのも分かるぜ。
しかし、オスカーは人は良いのに、頭が悪いのが玉に瑕なんだよな。
なんとかならんか。
そのオスカーがふいに顔を上げた。
「そうだな、よし!」
すぅっとオスカーの頬に朱が刺し、何か興奮状態に入った様だった。
「なにがいいんだ?」
俺は気になって聞いてみる。
「私は目が覚めた。決めたぞ、父上、母上と話をしようと思う。」
「そうか、良い事だな。」
俺は静かに頷く。
他の2人もそれを聞いて胸をなでおろし、安心したようだった。
そして俺たちを乗せた馬車は学校の校門に到着した。
俺、テオ、リックで順番に降りる。
ところがオスカーが降りてこない。
「私はこれから王宮へ行って両親と話をしてくる!では、皆おやすみ!」
オスカーがそう言うと馬車が走り出す。
「これから?」
俺は呟いた。
時間は九つの鐘がなったところだった。
照明魔道具が発達したノヴァリス王国では決して深い時間ではない。
しかし、室内で行う娯楽が少ないこの国では、早い時間でもないのだ。
まあ、行ってしまったのは仕方がない。
俺たちは寄宿舎に入り、お互いの部屋へ戻っていく。
「楽しかったよ。君は聞いていた以上に楽しい存在のようだ。明日からまた頼むよ。」
テオが別れ際に言った。
リックも、
「今日のお代は必ずお返しします。ありがとうございました。ヴァレンタイン家には助けられてばかりで…」
「リック先輩、長くなりそ?」
「い、いえ、ではおやすみなさい。」
そう言って自分の部屋に向かっていった。
そして俺も初めての自分の寄宿舎の部屋に入った。
そこにはむくれてふて寝を決め込んでいたローズがいたわけだが。
彼女をなだめすかせ、何とか眠って次の日。
その日も、各授業のオリエンテーションがあり、それが終了したらテオが俺を呼びに来ていた。
「殿下が何やら落ち込んでおられてな。俺たちだけでは突っ込んだ話が出来ない。」
「それで僕の出番と。」
「そのとおりだ。」
めんどくせ。
「では行きましょうか。」
俺たちは騎士学団幹部会の部屋に向かった。
部屋に入ると、あからさまに落ち込んでいるオスカーが座っていた。
美しい碧眼の周りに醜悪なクマを作り、絹のように繊細なはずの金髪はボサボサだ。
部屋の中には俺とテオ、オスカーしかいない。
「誰も通さないようにしておく。」
そう言って、テオは廊下に出て、ドアを閉めた。
俺はオスカーの前に座って話し掛ける。
「オスカーどうした。そんなに取り乱して。」
「バカだった。」
オスカーは蚊の鳴くような声で呟いた。
「うん、知ってる。」
「貴様は私が落ち込んでいるのに。」
「いいから何がったか教えてみろ。」
「あれから王宮に戻ってな。それまでの話を話し合おうと、父上と母上の部屋に向かった。」
おい待て、嫌な予感しかしない。
「そうしたら、メイド達が入るなと邪魔をしてな。しかしこちらものっぴきならない気持ちを抱えて気が急いていた。」
「うん。」
「勢いあまって両親の寝室の扉をあけ放ったのだ。」
「そっか。」
「そうだ。二人は行為中だったのだ。」
「ばっかでぇ!」
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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