287.アベル君と王室の事情。
287.アベル君と王室の事情。
「まあ、うちの両親は確かに理想なんでしょうね。」
「君は追従しなかったようだが。」
テオが俺をせっついた。
「いやぁ、モテちゃって。」
俺はそう言って頭を掻く。
「ふざけろ!まったく!」
そう言うと、テオとリックはゲラゲラ笑いだした。
しかし笑っていないのが約一人。
「オスカーどうした?」
「うむ、ちょっと思いをはせていたのだ。父上と母上がなぁ。」
オスカーは視線を下げつつまだ悩んでいた。
「それについて僕が言及するわけにはいかないんだ。明らかな不敬だからな。」
「それはわかるが、ちょっと聞いてほしい。父上には何人か情婦がおる。母上が教えてくれていな。その中には庶子も何人かいるそうだ。」
オスカーはそう言って俺の方に顔を向ける。
俺は聞いてやることにして、
「うん、それで?」
とだけ言った。
「うむ、それな、母上は怒らんのだ。文句ひとつ父上には言わない。」
だろうなぁ、10年前、王妃から色々聞いた。
たぶんオスカーより先に庶子が居ることを俺の方が知っていたんじゃないか?
「それで?」
「そんなものなんだろうか?さっきテオがローランド卿ご夫妻のことを言っておったが、貴様の親御は仲が良いのか?ローランド卿が他に女を作るそぶりもないのだろうか?」
ありゃ、うちまで飛び火しちゃった。
「僕が言うことで不敬になるかもしれない。許してくれとは言えない。ただ、今の疑問について答えるとなるとそうなってしまうのは了承してくれ。」
「うむ、私の疑問に答えるのだ。そのような固いことは極力言うまい。なあ、爺。」
爺と呼ばれた王室の執事が、前列シートから出てきて、
「殿下の思し召しのままに。」
そう言って一礼し、またシートに着いた。
あーあ、童貞喪失の馬鹿話のつもりが、オフィシャルな座談会になってしまった。
で、俺は重くなる口を開く。
「最初に、王妃陛下が王陛下に怒らないのは、そういう教育をずっと受けてきたからだ。王陛下が愛でるのは、王妃陛下だけではないとね。」
「む、母上はそのような教育を受けていたと?」
「そうだ。王妃陛下は王陛下のもとへ嫁ぐことが決まった時点で、言ったような教育を受けることになっていたはずだ。」
「何故だ!何故そのようなことを教育を受けねがばならん!父上の御寵愛を受ければいいだけの話ではないか!」
「そうだな、一夫一婦制ならそれが正しい。しかしさっきオスカーに言ったはずだ。王陛下は子供を作るのが責務なのだ。王妃陛下とは、お身体のことを考える等すれば、オスカーと王女殿下の二人を御主産すれば、負担が少ないという考えだったのだろう。しかし、王太子であるオスカー一人だと心もとないんだ。」
「私一人では足らんと言うのか。」
「今、ここに居るオスカーは女性との秘め事を出来るくらいに健康だ。」
「そのような茶化しは良い!」
「茶化しではないんだ。大事なことだ。しかし、これが幼少期ならどうだ?子供はすぐに病気になり、適切な処置を怠るとすぐに死ぬ。これはどうしようもない現実だ。」
「…」
「病気だけではない、事故、そしてオスカーに対する殺意。これらを未然に防ぐ必要がある。」
「アベル!貴様は私が誰かに殺されるやもしれないと言うのか!」
「その可能性はあると言っているんだ。現に十年前の呪詛事件を思い出せ。あれはオスカーを操り、王族の誰かを殺め、オスカーに責任を擦り付けるために行われたものだ。幸い、リーサと言う治療魔法のエキスパートによってその企みは未然に防がれたがな。」
「あ…あれか。あの時は、あの時の記憶はないのだ。その所為でシャーロット殿を傷つけたという話は覚えている。」
「まあ、姉のことは気にするな。あの頃のことを姉はおくびにも出していない。しかしな、このようにオスカーの身体を守るのは容易なことではないんだ。気をつけていても呪詛を掛けられてしまうくらいにな。」
「うむ、だから私の代わりが必要という事か。」
「端的に言えばそうだ。」
俺がそういった後、またしばらく沈黙が続いた。
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