284.アベル君と戦を終えた少年たち。
284.アベル君と戦を終えた少年たち。
俺が着替え終えると、またカレンさんが鈴を鳴らした。
音もなく襖があき係の人が顔をのぞかせる。
「それでは、また。」
俺はカレンさんに軽く会釈をすると、
「またいらっしゃるのをお待ちしております。」
カレンさんはそう言って、丁寧にお辞儀をした
そして係の人の案内で、例の要人用出入り口へ案内される。
そこにはテオドールと執事が待っていた。
「まだテオ先輩だけ?」
俺はテオに聞いてみた。
「まだだね。まあ、はじめての連中は離れがたいのかもしれないな。」
これは適格の予想かもしれない。
「あまりハマらなければいいんだけどね。執事さん、王室で考えなきゃ駄目だよ。」
「さようでございますね。皆さんのお年頃は底なしでございますから。」
いや~、それほどでもありますよ。
「いやはやお恥ずかしい。」
俺はそう言って頭を掻いた。
「若さの特権ですから、アベル様が恥ずかしがることはありますまい。」
そう言って、執事は微笑む。
「テオ先輩はどうでした?」
「どうでしたも何も、私は馴染みの人を付けてもらったからね。平常どおりさ。」
テオは肩をすくめ、口をゆがめた。
「年長者の余裕ですね。」
「そんなんじゃないさ、数を重ねているだけだ。君の様に関係者もいないしね。」
関係者か、まあその表現で許してやろう。
妾というより、少しはましだ。
「そうですね、僕が特殊なんでしょうね。」
「ま、君が特殊ってわけじゃないさ、事例もうたくさんあるしね。在校生の中でも自分のメイドをお手付きにしている者もいる。君は責任を果たしているだけ立派だよ。」
テオは目を細めながら俺に言った。
どうにもこういった評価は、むず痒いね。
「で、リラ殿に紹介された相手はどうだったんだい?」
テオは目を細め、微笑んだまま俺に聞いてくる。
興味なんかあるのかね?まあいいや。
「以前、もう十年前になりますけど、この地に来ていまして、迷子になったところを助けてくれた人だったんですよ。奇遇なことがあるもの…」
俺が言葉を止めたことで、テオが話しかけてきた。
「ん?どうした?」
「いえ、リラはそのことを知っていたんじゃないかと思いまして。」
それなら合点がいく。
母さんが手を回して公立の娼館にカレンを入れ、それがトップに居る。
そこまでリラは知っていたんじゃないか?
彼女ならやりそうだ。
「なるほどな、十年前の縁を結び付けたか。リラ殿は素敵な人じゃないか」。
「僕の思うとおりならば、テオ先輩の仰ったことが正しいのでしょう。僕には過分な連れ合いです。」
玄関先でそんな話を重ねていると、エセルリックが上気した顔で現れた。
「すごかった。」
だろうね。
「リック、もうどうだったって聞かくなくてもわかってしまったな。」
テオはそう言って可笑しそうに笑う。
「あんな、あんな見目麗しい女性が、私に対して…」
「わかった、リック、みな迄言うな。」
そう言ってテオはリックの言葉を止める。
じゃなきゃ、リックは今までの秘め事を全て吐露してしまいそうな勢いだ。
ああ、そうだ、リックと俺の分のお代を払っておかないと。
俺は窓口に行って、俺の分とリックの分を申告する。
「金貨一枚と大銀貨一枚です。」
「カレンさんが金貨一枚?」
「はいそのとおりです。」
今回三時間てところだった。
それで百万円。
スゲー!
リックの相手も十万は高いよな。
三時間十万だよ?
某所の高級店並みか。
行ってみたかったなぁ。
今更、日本に想いを馳せても仕方ないんだが。
「ア、アベル様、申し訳ありません。そんなに高額だとは。」
リックは俺が払い終えたのを知って近くに来ていた。
「良いんですよ。初めから出すはつもりだったんですか。来る前に言ったじゃないですか。何も後ろ暗いものではないって。」
「いえ、いずれお支払いしますから。」
申し訳なさそうにリックが行ってくるので
「では出世払いで。頑張ってくださいね。」
「はい!頑張ります。」
リックは張り切ってそう告げた。
今ので色ボケは消えたかな。
なんて会話をしていたら、要人がふらふらと帰ってきた。
見るから足元がおぼつかない。
どれだけ搾り取られてきたんだよ。
職員さんも、美形の王子と知って張り切ってしまったのかな?
「オスカー、お疲れのようだね。」
「ア、アベルか。き、貴様はいつもあんなことをやっているのか?」
嵌っちまったかな?
王子が娼館にはまるとは。
でも経済が回るって部分では良いことかもしれないな。
俺が王妃に怒られそうだが。
「まあ、そういう話は玄関口でするもんじゃないだろう。他の職員さんたちもいらっしゃるからな。」
俺がこう言うと、
「う、うむ、そうであったな。では馬車に乗るとしよう。」
そして出迎えた獣人が俺たちに向かって、
「またのお越しをお待ちも仕上げております。」
と、丁寧に三つ指を付いて礼をした。