281.アベル君と二度目の出会い。
281.アベル君と二度目の出会い。
「私が、まず受付してまいります。少々お待ちくださいませ。」
そう言って執事はその年老いた身体に似合わぬ軽やかなステップで、馬車から降りた。
あの爺さん、昔何かやっていたのかね。
そんなことを思いながら待っていると、
「アベル様、先ほどの紹介状をお持ちになり、こちらにお出で下さい。」
執事が馬車のドアを開け俺を呼んだ。
「ちょっと行ってくる。」
そう言うと、三人は黙ってうなずいた。
テオまで緊張し始めたじゃないか。
うつるんだよね、そういうの。
セイナリアの娼館も和風建築か。
ヴァレンティアでもそうだから、娼館はそういう様式で建てるのが習わしなのかもしれない。
俺は懐に入れた紹介状を確かめ、専用口をくぐった。
見ると、廊下に職員であろう初老の猫耳獣人が正座をしていた。
正座で待っている職員に紹介状を差し出し、
「こちらが、ヴァレンティア娼館主、リラの紹介状になります。中身は私の相手に対してかと思いますが、今回、やんごとなきお方もお連れしてまいりましたので、対応できる方を見繕っていただきたい。よろしいですか?」
「紹介状を確かめて頂いてもようろしいでありんすか?」
猫耳獣人はそう聞いてきた。
「どうぞ。そのために持ってきたのです。」
俺はそう答え、そう言った俺を一瞬見つめニコリと獣人は笑った。
言葉が古めかしくて面白いが、まあ、郷に入れば郷に従えだ。
そういうものと受け入れよう。
「はい、確かにリラ殿からの紹介状でありんす。ヴァレンティアの至宝、アベル様ようこそおいでなしんした。」
そう言って三つ指を付きお辞儀をした。
おっと、ここでも至宝かよ。
仕方ねぇなぁ。
「それともう一つご相談が。」
「なんざんす?」
「やんごとなき方は初めてで、もう二人連れてきた片方も初めてなのです。どうぞ、それらも加味して選んでいただけるとありがたいのですが。」
「わかりんした。手配しましんす。」
ふう、これで第一関門クリアだ。
後の関門は己で抜けてくれ。
色んな意味でな。
「では執事の方、皆様をお連れ下さいませ。アベル様は私についておくれなんす。」
執事は一例して馬車の方へ行き、俺は靴を脱いで獣人に付いて行った。
はて?俺一人ってことは、リラの紹介状に書いてあった人物に合わせるのだろう。
「こちらでありんす。」
獣人は二間分の襖の前で足を止め、正座してから両手で丁寧に襖を開けた。
昔見た大奥のドラマみたいだな。
なんてことを思いながら、部屋の中を見る。
襦袢に内掛けを引っ掛けた女性が三つ指ついて、頭を下げている。
英雄王ノヴァリスは、遊郭テーマパークでも作りたかったのかね?
手が込み過ぎている。
さて?どうしたもんか。
ん?ヴァレンティアの娼館はこうじゃないのかって?
最初は客間に通されたけど、色んなの取っ払ってあっという間にリラとつながっていたからなぁ。
後はさ、客間なんぞ行かずに、リラの部屋へ直行していたからね。
ヴァレンティアの娼館の中はほとんど見ていないんだ。
さて、俺は部屋の中に進み出て、用意された座布団に正座で座った。
ひじ掛けも用意してある。
まさに殿様アトラクションである。
「リラから紹介いただいた、ヴァレンティアのアベルと申します。面を上げて頂けますか?」
「はじめてお目にかかります。カレンと申します。よろしくお願いいたします。」
そうカレンと名乗った人の襟元から除く首の色は浅黒く、耳はやや尖っていた。
ダークエルフ?
ん?なんだろう?既視感があるな。
挨拶をしたカレンは顔を上げた。
「あ!」
俺は思わず声を張り上げる。
そんな俺を見て、カレンは不思議そうに首をひねった。
「カレンさん!?ご無沙汰してます!」
俺がそう言っても、カレンは何のことやらと、頭の上にはてなマークの付きそうな勢いだ。
「もう十年も前だから、覚えてないかもしれませんね。僕がスラムで騒ぎを起こしたときに、頬をブッ叩いてくださったのを。」
俺がそう言うとカレンの顔がハッ!となった。
「あの時のお子様が、このように立派な…」
そう言ったと思ったら、また頭を下げ、
「あの時は申し訳ありませんでした!ヴァレンタイン辺境伯様のご子息と知っていたのにもかかわらず、手を上げてしまったこと、万死に値します。」
そう言って小さくなる。
「いや、止めてください。あの時は、僕も精神的におかしくなっていて、カレンさんが抱きしめて慰めてくれなかったら、人攫いごとスラムを焼け野原にしていたかもしれなかったんですから。あの時はありがとうございました。」
俺もそう言って頭を下げた。
「いえ、お止め下さい!アベル様が頭を下げるものではございません。お貴族様が民草に頭を下げては、沽券にかかわりましょう。そう容易く下げてはなりません。よろしいですね?」
お、なんだか調子が出てきたな。
「はい、そういたしましょう。ここからは客と遊女。そういう仲でよろしいですか?」
「はい、それではそのように。」
そう言って、カレンさんは妖艶に微笑み、俺を迎え入れた。
はい、ここから大人の時間ですよ、次のお話までバイバイ。
作者です。作中の廓言葉の様なものは、様なものです。
ここが正確ではない!とか言われても、そうでしょうねとしか言えませんので、ご了承ください。