279.ローズさんとアベル君。
279.ローズさんとアベル君。
分かっていた。
こういう日もあるのではないかということを。
ヴァレンティアに居たころだって、リラ様にだって会いに行っていた。
でも、学校初日から、用意したご飯も食べずに娼館に行くってどうなの!
あ!いけない。
イラつかないようにと思っていたのに。
でも、ついつい悪い方向に考えてしまう。
でもでも。
お友達と行くと言っていた。
どんなお友達なんだろう。
今まで男の人の友達なんて、アベル様は作ったことがなかった。
でも今日会ったばかりのお友達と、娼館に行くって!
ああ!もう!
また娼館でいい人を見つけたらどうしよう。
悪い女が付かなきゃいいな。
私に飽きたってことなのかな?
そんなの嫌だ、まだまだ何もやっていないのに。
エレナ姉が色々教えてくれた。
え!ユーリさんとそんなことしてるの!?ってことまで。
今までそれをなぞって一生懸命やって来たのに。
でもアベル様の方に余裕があって、なぜか私の方が参ってしまう。
リラ様にご指導を受けているのかしら?
それもそれで、ん~~~~!
ダメダメ、そんなふうに考えちゃダメ!
全て私が決めたこと。
私は承知で妾になった。
アベル様は、こういう思いや、貴族の中で息苦しい思いをさせないために、私をずっと拒否して下さっていた。
それを押し切ったのは私の胸に溜まったアベル様への想いだ。
そんな生易しい想いじゃない。
情念とかいうものなのかもしれない。
アベル様がリラ様の所に行って、大人になったと聞いたときは、本当に胸が張り裂けそうな思いだった。
一晩中泣いていた覚えがある。
でもアベル様が受け入れて下さった。
あの時は嬉しくて泣いた。
泣いてばかりだ。
四歳でヴァレンティア城にご奉公に上がり、ずっとアベル様を見てきた。
私の人生のほとんどがアベル様なのだ。
その人が、他の人のもとに行く。
分かっている。
分かっているけれど!
嫉妬?嫉妬なんだろうか?
こんな思いするはずじゃなかった。
でもわかっていた。
私のご主人さまはモテるんだってことは。
アベル様は10歳の頃にダンジョンで強盗に襲われ、その強盗達をダンジョン内に置き去りし、行方不明にしてしまった。
それで冒険者たちに疎まれた。
それをギルバートギルド長様とフレイヤ副ギルド長様が庇ってくださり、更に疎まれてしまった。
そんな状況でも、成長していくアベル様に、冒険者の女たちは熱い視線を向けていたことは知っていた。
お城のメイドの中でもアベル様を狙っていた者はいた。
ミー姉ちゃんが、アベル様のお手付きになるために、誘ったことがあると言ったのはショックだった。
もう!ミー姉ちゃん!!
とりとめのない考えが頭の中を回る。
一番困るのはアベル様との楽しい思い出だ。
それが脳裏によぎるだけで、胸が締め付けられる。
帰ってくる、ちゃんと今晩中に帰ってくるはずなのに、胸がキュウと痛くなる。
こんなんだったら!
一緒に居なければよかった!
ないない、それはない。
やっと、やっと一緒になれたのだ。
しかもアベル様が信念を曲げ、私を娶ってくださった。
それをたかが嫉妬で手放すわけにはいかない。
たかが嫉妬!
嫉妬!嫉妬かぁ…
もう嫌だぁ。
涙が出そうになる。
早く帰ってくれないかな。
早く抱いてくれないかな。
他の女を抱いた手で!?
う~ん、もう嫌だぁ。
嫉妬なんて嫌だよう。
もういいや、とっておきのお茶を出して飲んじゃおう。
もういい、もういいもん。
落ち着くため、落ち着くためにお茶を飲むだけ。
あ!クリス様が手綱を握っておけと仰ってくださっていた。
もう握る、すぐ握る。
もう離さないんだから。
これから誰が来ようと、誰が正室になろうと、もうアベル様の手綱は放さない。
他の誰が握ったとしても、私だけはもう放さない、離れない。
他の誰?
オリビア王女殿下?
可愛かったなぁ。
お綺麗だった。
お話も上品で、それでいてお強かった。
ピシャリと私の言葉をお止めになられた時は怖かった。
そんな人が、アベル様の正室?
ううん、もう考えないようにしよう。
お茶を飲んでお風呂に入って、先にベッドで寝るんだ。
もう、私の方が先に寝てやるんだ。
女心を書くのは相変わらず難しいですね。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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作者がんばれ!
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それでは、また続きでお会いしましょう。