278.アベル君と幹部会の面々。
278.アベル君と幹部会の面々。
オスカーに礼をした後、俺はリックの腕を引き上げながら立ち上がった。
リックは脱力してしまった、うまく立てないようだった。
俺とテオドール、ここからは【テオ】にしよう、が両方でリックを支えて立てさせた。
「リック、良かったな。」
そう言ってテオはリックの背中を叩く。
リックはリックで、涙を流しながら、うんうんと頷いていた。
それをなぜか女子たちは冷ややかな目で見ていた。
なんだろうね。
ああ、フランカだけは別だよ。
いきなりの貴族の茶番に目を白黒させていたようだ。
そりゃ、本来こんな場面、平民が見るものじゃないからね。
「あとイーディスが居たな。イーディス・ベオルンウィン、北部の男爵家の出身だ。」
ベオルンウィン家は知らないな。
少なくともうちの寄子ではない。
中央よりかな?
「北部と言っても中央にほど近いところの地域ですから、アベル様にはなじみが薄いのかもしれません。イーディス・ベオルンウィンでございます。どうぞよしなに。」
そう言ってイーディスと呼ばれた女子は、優雅なお辞儀をして見せた。
「イーディスさん、こちらこそよろしくお願いします。」
俺もイーディスにお辞儀をした。
先輩だしね。
敬意は払わないと。
は?いまさら?
もう、五月蠅いな。
ここまでで敬意を払わなければならないような奴が出てきたか?
せいぜいテオだけだ。
「うん、私たちは彼女のことをイーディーと呼んでいる。アベル、よろしく頼むぞ。」
「はい。」
俺はオスカーに言われ、とりあえず返事をした。
「後は貴様が張り倒したルーカ・アルディーニだな。南部伯爵家出身だ。」
ほう、伯爵家ね。
傲慢なわけだ。
向こうは伯爵家、こちらは辺境伯家。
似たように思えるかもしれないが、この国の序列としては、辺境伯家は侯爵家と並ぶ。
つまりこちらは伯爵家よりも序列は上になるわけだ。
それでも俺に突っかかってきたってことは、パーシー公爵の後ろ盾を笠に着たのか。
同じ『こうしゃく』読みでも、公爵は王家の血に連なるもので、こちらの方が上になるのだ。
だからこそ、ルカはパーシーに与するもの、そう見るのが妥当。
そしてジーナも手先ってとこかな。
予想はしていたが、こんな事は本来考える場所じゃないはずなんだがな。
オスカーもその調整には苦心しているようだし、しばらくは極力巻きこまれない形で傍観を決め込もう。
「フランカとアベル、随分と挨拶の時間が長くなってしまった。今日は授業が無いから、街で会食と行きたかったのだが、ルカも居ないしな。これで解散しよう。」
オスカーはそう言って解散を告げる。
フランカの影が薄かったが、良かったのか?
今回みたいなことが、これからも起こるかもしれないから、貴族的なルールはあとでフォローしてやろう。
などと思っている間に、女子たちは部屋を出て行った。
「さあ、今日の片付け物はこれで済んだ。行こうか!」
妙にオスカーが張り切っていた。
やっぱ、やりたかったんじゃねーの?
このムッツリが。
「皆さん、どちらに行かれるのですか?」
さっきまでふらついていたリックが、聞いてくる。
そしてオスカーはリックの方に顔を近づけ、
「実はな、この後娼館に行こうと言う話になっていたのだ。」
「娼館!!」
リックは思わず声を張り上げる。
それをとっさにオスカーはリックの口を手でふさぎ、
「おいおい、まだ女子たちが前の廊下に居るかもしれないのだ。こらえてくれんか。」
そうオスカーはリックを諭す。
手で口を塞がれたまま、リックは数度頷いた。
「リックはどうする?この三人は既に行くことにしているのだがな。」
もう、行く気満々のオスカーはリックに速く結果を出せと言わんばかりだ。
「い、いえ、私は娼館などで遊ぶような小遣いは有りませんので、ご辞退申し上げます。」
「うむ、そうか。アベル、テオ、それでいいかな?」
そう言ってオスカーは俺とテオに聞いてきた。
「リックの財務状況をこの場で娼館に行くために探る必要もないでしょう。私はそれで構いません。」
テオはあっさり結論を出す。
「アベルはどうだ?」
「ああ、北の互助会の責任者の倅として、リック先輩の分は僕が出しますよ。」
「おお、そうか、それがよろしかろう。」
オスカーが大きく頷く。
「しかし、アベル様、よろしいのでしょうか?」
リックは大きい身体で、リスのようにキョロキョロしていた。
「構いませんよ。僕の小遣いは僕自身が稼いだものです。家に迷惑をかけるものでも、後ろ暗いものでもありませんから。」
俺はリックにそう答えた。
そして続けて、
「それに…」
一旦言葉を俺は切り、残りの三人が俺にさらに注目し、オスカーが俺に向かって口を開く。
「それに?」
「リック先輩も、オスカーと同じでどうせ童貞でしょ?この際そんなものは卒業してしまいましょう。」
テオは俺がオスカーと名前で呼んでいるのは承知しているし、リックもどうせすぐにわかる話だ。
今のうちに交友関係は詳らか(つまびらか)にした方が良いだろう。
俺の言葉を聞いたオスカーは憤怒の表情をし、リックは羞恥で顔を染め、テオは横で腹を抱えて笑っていた。
「アベルの馬鹿者!このような場所で言わなくても良い事を!」
オスカーが俺に怒鳴る。
「まあまあ、いいじゃない。今日で卒業できるのだし。な、オスカー。」
俺はそう言ってオスカーの肩をポンと叩き、ドアに向かった。
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