277.アベル君と忠誠と言うもの。
277.アベル君と忠誠と言うもの。
跪き、顔を下げたリックが口を開く。
「我が名はエセルリック・ウルフリックであります。アベル殿にはお初にお目に掛かり光栄でございます。」
ふぁっ!
止めてくれよ!
うちの家が弾圧掛けているようじゃないか。
「やめて、そのような口上は止めて下さい。そしてどうぞお立ち下さい。同じ学生ではありませんか。」
俺はリックに駆け寄り、立たせようとして屈んだ。
「いえ、私の家は子爵家と言えど、ダンジョンも、これと言った産業も無く、農地と森に囲まれた貧しい土地であります。それをいつもヴァレンタイン家の方々は気に掛けて下さり、資金などを融通して頂き、何とか糊口をしのがせてしていただいている状態であるのです。いくら感謝しても、したらないのです。」
はあ、さよか。
まあ、うちは稼いでいるからな。
使い切れない分くらい、寄子に回しているのだろう。
あまり贅沢もしないしね。
母さんの金剛石趣味以外は。
「それはリックさんの家が我が家の寄子であれば当然のこと。気に病むことではないですよ。」
「いえ、それだけではないのです。私の弟、我が家の三男などは、身体が弱く騎士の道も無くし困っていたところ、勉強の出来が良いと、官僚に召し抱えてくださいました。冷や飯を食う羽目になりそうだった長女も、ヴァレンティア城のメイドとして召し抱えられ、おまけに縁談までまとめて下さったのです。ヴァレンタイン家には一生の忠誠を誓うつもりでございます。」
それ、アカンて!
しかも王子がいる前で。
一瞬、オスカーの目が険しくなるのが見えた。
俺はそれを横目でちらりと見てから、リックに言った。
「それはいけません!!絶対にいけません!!ノヴァリス王国に存在するすべての貴族の忠誠は、王家に向けられなければなりません。我々の寄子制度などは、北の互助会でしかないのです。それを肝に銘じてください。私のお願いです。頼みますから、我が家に忠誠など向けないでいただきたい。」
俺、必死。
それを聞いたリックは一瞬俺の方に顔を上げ、あわわと慌てた顔をした。
そして、
「アベル様!申し訳ありません!貴族としての本分を投げ出してしまう所でした!殿下に謝罪申し上げます!我がウルフリック家、王家に仇なす者では一切ございません。もし気に入らぬようでしたら、この心臓を只今貫いて頂いてもかまいません。私だけの責任で御座いますれば、どうぞ、どうぞ、家族はお目こぼしを頂きたく存じ上げます!」
俺はその言葉を聞いて、オスカーの前に出て跪いた。
「恐れながら王子殿下、此度のリックの失言は、我がヴァレンタイン家の利益を寄子に分配したことによる、感謝の履き違いが切欠でございます。当然のこととして、ウルフリック家とリックの忠誠は王家に向いているに違いありません。どうか、私めも謝罪申し上げますので、寛大なご処置を頂きとう存じ上げます。」
もう俺、必至。
それを聞いたオスカーがクスリと笑った。
はあ、舐めてんのか?
いやいや、ここは抑えて。
「リック、貴様凄いな。アベルが私に跪くなど、今までなかったことだぞ。最初に合った日に、此奴は私を雪だるまのようにしおっての。まったく、酷いやつだったんだ。そんなアベルが、お前の発した言葉ひとつで、今私にこうして跪いておる。いやはや痛快。」
そう言って、オスカーは大声で笑いだした。
なんだとう!もう一回雪だるまにしてやろうか。
「アベル、リック、面を上げてくれ。学友ではないか。この件は水に流そう。私はヴァレンタイン家が、ウルフリック家の者共に善い行いをしていた。それが聞けただけで満足なのだ。いいな。」
へぇ、オスカーにしては良い着地点に持って行きやがったな。
文句がつけられんから、面でも上げてやるか。
俺はリックの肩をポンと叩き、面を上げてから、
「王子殿下、感謝申し上げます。」
そう言って跪いたまま、また頭を下げた。
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本作は長編となっています。
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