ローズの回想6
「お話ですか?」
私は聞き返しました。
「ええ、お話。そうね、ローズのご家族のことでも教えてもらおうかしら。どんなご家族だったの?」
シャーロット様はそう言うと、また水を一口含んで私を見つめました。
「そうですね、お父さんとお母さん、そして私と、私の下に弟が二人、妹が二人、全部で七人家族でしたね。去年まではお婆ちゃんもいましたから、大家族でした。」
と、私が言うと、シャーロット様は驚いたように少し目を見開きました。
「ちょっと待って、四歳のあなたの下に四人の兄弟って?」
若干戸惑っているシャーロット様。
「ああ、下の兄弟は男女二組の双子の年子なんです。」
と、私が言うと
「まあ、それはご両親は大変だったのね。お父様とお母様はどんなお仕事をなさっていたの?」
と、お聞きになりました。
私は
「お父さんは身体が大きくて力が強かったので、道路や城壁の工事を親方さんに雇われて他の人たちと一緒にやっていました。よく「御領主様は、我々下々の者が食べていけるように、ちゃんと仕事を回してくださる。ありがたいことだ。」と、言っていました。お母さんは、まだ小さい兄弟が多いので、お家で裁縫などのお仕事をしていました。」
と、言いました。
シャーロット様は
「御領主様って父様のことね。ふふ、父様が褒められるのはとても嬉しいものだわ。」
と言って、目を細めながらクスクス笑いました。
そして
「親方さんってどなた?ご家族ではないのでしょう?」
と私に尋ねました。
「親方さんは、御領主様から預かった仕事を、お父さんたちに割り振るお仕事をしている人だって言ってました。よくいろんな相談事も聞いていたとも言っていましたね。」
と、私は言いました。
「そうなのね、よく父様が商業ギルドの方と工事の話をしていたから、お城や町の工事は商業ギルドに卸しているのだと思うわ。そしてその親方さんはきっとギルドの方なのね。だから仕事の分配をしているのだわ。」
と、シャーロット様は納得したようにうなずきました。
そして
「お城の外のお話は、興味深いわね。」
とおっしゃりながら微笑むと
「ところでローズは兄弟の一番上だったのね。どうしてお城に勤めることになったの?」
とお聞きになりました。
私は、この前ネス様がお家に来た時のことを、シャーロット様にお伝えしました。
そしてシャーロット様は
「ああ、そう。ネスがあなたをここへ連れてきたのね。」
と、言って、ふむ、なるほど、と頷きながら
「あなたのお父様は親方さんに何かしら相談事でもしていたのかしらね。」
と、おっしゃり、また水を口に含みました。
私は
「相談ですか?」
と、聞き返しました。
「ええ、相談というか世間話の一つだったのかもしれないわ。子供がたくさん居て家計が苦しいとか、仕事を回してほしいとか言ったのかもしれない。そして、あなたの自慢話の一つでもしたのかもしれないわね。一番上の子は頭の良い、よくできた娘だとかって。実際、あなたは頭が良さそうだもの。少しお話しただけでわかるわ。そして、その話が親方さんから商業ギルドへ、そしてネスか他の役人の耳に入り、父様に伝わったのでしょう。それで母様のお腹の中の子のお付きにぴったりだと思ったのかもしれないわね。」
と言い、また水を口に含みました。
「頭が良いなんて…えへへ。」
私が照れながら身体をくねらせていると、シャーロット様は
「もっともメイドのことは父様の一存だけで決められないから、母様とマーガレットも交えてご相談したんでしょうね。そしてここへ連れて来られたあなたをマーガレットがあっさりメイドとして採用を決めたんですもの。ローズ、あなたはやっぱり優秀なのだわ。」
と、おっしゃいました。
続けて
「あ、そうだわ、ローズは読み書きや算術はできるの?」
と、シャーロット様は私に聞きました。
「兄弟の面倒を見なければなりませんでしたし、お金もなかったですから、教会とかの塾へ通うことができなくて…。お父さんもお母さんも苦手だったので、私に教えることはできませんでした。」
と私が言ったら
「ならリサと一緒に私と勉強しましょう。私が教えてあげる。リサもいいわよね?」
と、リサを見ます。
リサはそんなシャーロット様を見つめて無言でうなずきました。
それを見たシャーロット様はぽんと胸の前で手を叩き
「なら決定。あなた方のお仕事の合間に、お勉強をするわよ。がんばりましょうね。」
そう言って優しく微笑みました。
そして
「座り続けるのも疲れるのよね。」
とおっしゃり
「うーん」
と、言いながら腕を振り上げ伸びをして、頭の上で可愛く小さな手のひらを広げるのでした。
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