276.アベル君と今更のメンバー紹介。
276.アベル君と今更のメンバー紹介。
「やらなければ僕が殺されていましたから。」
「避けていたじゃないの!」
「それはまあ、避けなければ刺されますから。」
「そうじゃない!避けたのなら、別の対処があったでしょって言ってんの!」
「具体的には?おそらくまた彼は僕に対して、剣を振るったでしょう。それを永遠避けて居ろと?」
「そうは言っていないわ。あなたの腕ならば、剣を取り上げることも可能ではなかったの?」
「出来たかもしれません。しかし彼自身も騎士候補、見たところそれなりの修練も積んでいたようです。それなのに剣を取り上げられたのではないかと言うのは、些か僕ことを買いかぶり過ぎです。」
「もう!男のくせによく口が回るわね!あの剣豪たちの家族とは思えないわ!」
出た!女によるジェンダー差別。
「祖父も父も領主経験があるわけですよ。政治家であり実務家です。その二人の口が回らないわけがないじゃないですか。」
「ジーナ、もう止めろ。今回の件では明らかにルカが悪かった。丸腰の相手に剣を向けたのだからな。」
オスカーが仲裁に入る。
「お言葉ですけど殿下!殴りって壁まで吹き飛ばす必要は無いように思いますが。」
「しかし、剣を握り、最初に手をだしたのはルカだ。これはまごうことなき事実。貴様らが出て行った後、アべルは殺人未遂の訴訟を持ち出そうとしたのだ。私の必死の説得で収めてくれたがな。」
「だけど!」
ジーナはなおも食い下がろうとしたが、
「だからやめろと言っている。アベルには口で勝てんぞ。一閃の剣と剣では無敵の家族だけではないのだ。宰相とクリス夫人の孫なのだぞ。」
それを聞いてジーナはハッと我に帰る。
「私の言葉は、ヴァレンタイン家とセントクレア家の権威を示した言葉ではない。宰相とクリス夫人の薫陶を受けたアベルに口で敵う人間などなかなかおらんのだ。私などはいつもやり込まれて、悔しい思いばかりしてきた。さっきまでもそうであったがな。だが、アベルも領主の嫡男である。余計ないさかいを避けるため、訴訟まで取り下げたのだ。その情は受け止めろ。」
ジーナは一瞬長いまつ毛を下げ、
「承知いたしました。ジーナ・サンタグレ-ス、アベル・ヴァレンタインと和解することといたします。」
そう言って俺に手を差し出した。
しかしその目は明らかに怒りの業火で燃えていた。
いやだなぁ、こういう人。
一方的な正義を持ち出す人は、理屈が通らなくて行けない。
なんたって、正義は自分の方にあると思っているんだからな。
まあ、仕方がない。
王子がせっかくとりなしたんだ。
皆がいるこの場で従わなければ、俺の心象だけでなく、オスカーの立場まで悪くするからな。
俺は手を差し出し、ジーナの手を握った。
握ったお互いの手を一回上下に振ると、ジーナはさっさと手を引っ込め、元の場所に戻ってしまった。
「そうだ、メンバー紹介がまだであっただろう?ルカがそれをする前に手をだしてしまったからな。それでは簡単に私が紹介しよう。」
そう言って急にオスカーが幹部たちの紹介に入る。
この雰囲気でか?
流石に空気を読まないな。
「みんなよいか。アベルもいいな?」
俺は仕方なく静かに頷いた。
「今、貴様と握手をしたな。彼女がジーナ・サンタグレース。南部出身。男爵家だが、勇猛で知られた家の出だ。」
勇猛じゃなくてイノシシだろ。
そう呼ばれたジーナは、形ばかりの会釈を俺にした。
「続いてエセルリック・ウルフリック。北の子爵家の出だな。私たちはリックと呼んでおる。名も家名もリックがついておろう?丁度良いのだ。」
何がちょうどいいんだよ。
でも知っている、うちの寄子だ。
そう紹介されたリックは、いきなり跪いた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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