272.アベル君と彼の実力。
272.アベル君と彼の実力。
オスカーが口にしたことをテオドールが聞いた途端、また復活しかけた心がへし折られたかのように、身体が地面に突っ伏した。
こいつら、面倒くせえなぁ。
「オスカー、空気読めと言っているだろう!」
「そのような準犯罪者の空気も読まねばならんのか?私は承服しかねる。」
「そうか、それでは僕もオスカーによる過剰な姉への干渉を止めて頂くよう、王陛下に陳情することにする。」
それを聞いたオスカーの顔は、口が半開きになり、急激に青ざめて行った。
「な、なぜだ!テオのそれと、私とシャーロット殿の関係とは全くの別物のはずだ!」
オスカーは俺に叫んだ。
「同じだ、いや、実際に付きまといを行っている分、オスカーの行いの方が鬱陶しいだろうな。しかも王権をチラつかせてだ。お前は何をしたいのだ?王権を使い、姉を我が家から略奪したいのか?」
「い、いや、決してそのようなことは、私自身望んではおらぬ。私個人の魅力でもってシャーロット殿を屈服するつもりだ。」
「屈服だあ!?気持ち悪りぃなぁ、こいつはよっ!」
「貴様!こいつとは何だ!不敬であろう!」
「なんだ!婦女子の略取を企てる準犯罪者のくせに、不敬だと!?おい、こら!どの口が言ってんだ!こらっ!あ゛!?その身体を作ったお前の家族が悪いのか?城ごと、王家ごと燃やすぞ!灰も記録も残さねぇからな!こらっ!」
「りゃ、略取など企てておらぬが…」
「あ゛?」
「い、いや、すまなかった、言葉を選ばず、空気を読まぬ私の所為だな。ア、アベルよ、こらえてくれ!、た、頼む!」
俺の怒声を恐れ、必死に止めようとしているオスカーを、テオドールは遠くを見るような眼で見ていた。
「し、城を燃やす?灰も記録も残さない?…」
「で、出来るのだ、アベルは城どころか、このセイナリアも消し去ることが出来るらしいのだ!だから、慎重に付き合えと言われていたのに、私は大馬鹿だ!」
オスカーが珍しく自省している。
「やっとわかったか!馬鹿者め!」
俺はそう言ってオスカーをねめつけ、次の瞬間には笑ってやった。
俺の笑顔を見たオスカーは、心底ほっとしたような顔をして胸をなでおろす。
そして、テオドールに向き直り、
「さっきテオが聞かなかった、アベルの危険性が今の会話の中にあった。つまり、アベルの魔法は我々の考えの及ばないところにいる。セイナリアを消し去ってしまうような、だ。」
オスカーが静かにテオドールに話す。
それを聞いたテオドールは、ハッと顔色を変え、
「だからこそ危険人物だと?」
「そうだ。だからこそ内務大臣のカレッド伯爵などは彼を国の危険人物として指定しておきながら、信頼もおいている。彼に悪意が見当たらないからだ。今回の例は別だが…」
「まあね、うちの家族に刃を向けるものは、炭にするのももったいない。消し去るに限るな。」
「ア、アベル君は国に対する忠誠、王家に対する忠誠はないのかな?」
「ありますよ。我が家が存続しているのも国のお陰ですから。両陛下とも尊敬できる人物ですし。少々アレですが。」
「それは、尊敬できねば忠誠は無いということになるのではないかな?」
「そうですね、そう取られても仕方ないでしょう。君主制とはそういうものなのではないですか?結局は各領主が王家の誰かを尊敬や敬愛できるか、もしくは何かしら得をしているから王家に忠誠を誓っているのですから。勿論、歴史的兼ね合いなどと言う、しがらみもありますが。」
「果たしてそうだろうか?私の実家もその論理で動いていると?」
「エルゼン子爵家もその範疇から外れていないと僕は思いますよ。あれだけ大規模な湾岸工事を自費で行い、港湾権を獲得、海千山千の商家達を取りまとめ、湾岸都市エルゼに莫大な富をもたらしている。王家が放っておくわけない貴族なのに、なぜまだ子爵の地位で地方に居られるか?これだけで十分のはずですが。」
「私の実家が望んでエルゼに引きこもっていると?」
「そうでしょうね、テオドールさんのお爺様かお父様かは分かりませんが、そう望んでいらっしゃると思います。エルゼで儲ける、いや、儲けていたい。中央の政治などに興味は無いと。王家もまた、それで良しと思っているから現状維持なのでしょう。」
「正解だね。たいしたものだ。アベル君は政治までいける口とはな。」
そうテオドールが言った途端、オスカーが黙っていた口を開いた。
「そうなのか!そのような考えで、各領主は王家に忠誠を誓っておるのか!?」
オスカーが動揺したように俺に聞いてきた。
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