271.アベル君と推し活。
271.アベル君と推し活。
「おい!貴様!あの可憐で清楚なオリビア王女殿下が、貴様に懸想しているだと!!なんだ貴様!!何様だ!貴様!!」
いきなり俺に掴まり掛かるテオドール。
その語気は遥か天井までぶち上がる。
なんぞ!地雷がここにあったのか?
Vtuberオタのユニコーン的なアレか?アレなのか?
「止さんか!テオ!アベルが何かしたわけではない!オリビィが勝手に懸想しているだけだ!アベルは何もしておらんからな?な、そうであろう?アベル。」
「そう、そうですよ。僕との間に何があったってわけじゃないです。僕自身も、王女殿下であるという以外は、何の感情も持っておりません。」
「しかし、こいつが!こいつが!オリビア殿下を!!」
こいつはもう駄目かもしれん。
そう思い、窒息させようかと思った途端、
「テオ!貴様!!そのようになる程にオリビィに懸想しておるのか!」
オスカーがテオドールにそう呼び掛けた。
すると、テオドールは思考が停止したの如く身体も停止し、顔がハッと我に返ったかのようだった。
そして膝から崩れ落ち、
「申し訳ありません!王女殿下に懸想するなどとんでもないこと!私のようなものは、遠くから殿下を眺められればそれで十分なのです。」
そう言って泣き崩れた。
根が深そうだな、こりゃ。
「ここまでだったとは。」
オスカーが他人事のように言いながら、泣き崩れるテオドロールを眺めていた。
こいつ、お前が余計なことを言わなきゃいいだけだったんだぞ!
王子じゃなきゃ、ぶん殴っているところだ。
「テオドールさん、王女殿下のどこに引かれているんですか?」
俺は泣きじゃくるテオドールに声を掛けた。
「た、たまたま街に出かけたときに、とある孤児院で人集りが出来ていたんだ。私は興味本位で覗いてみた。人集りの中心、そこだけ風景が違って見えた。そこにはか細く、儚げでそれでいて溌剌とした生気に満ちた少女が、子供らと遊んでいた。私の目はその少女に釘付けとなったが、ほどなくしてその孤児院の建物の中に入ってしまわれた。私は周りの人に彼女が誰かを聞いてみた。それは王妃陛下の使いで、孤児院に施しにいらした、王女殿下と聞いた。あれが、オリビア様か。私はその一瞬だけ時が止まったように思えた。頭の中に、王女殿下を記憶する別の部屋が区切られたような気がしたのだ。それから、この騎士学校へ王子殿下の修練を数回見学にいらした。直視できないほどにまぶしかった。しかし私の目は王女殿下を追わずにはいられなかった。王女殿下の一挙手一投足の全てを記憶として焼き付けるために。」
オタクの一人語り長い。
「程無くして私は気が付いた。私は王女殿下に触れることも話すことも出来ない。あるいはその切っ掛けくらいはこのセイナリアに居る期間中で切るかもしれないが、ほぼ叶わぬ思いであろう。で、あるなら私は王女殿下を守ろう。王女殿下がおわす王城を、セイナリアを、このノヴァリス国を私の手で守ろう。そう心に決めたんだ。」
ん?終わったかな?
「そう思っていたのに、こいつが、この野郎が!」
あ、またスイッチ入っちゃったか。
「まって、おちついて、はい、どう、どう。」
俺は詰め寄るテオドールに手を向けて、落ち着くように促した。
「私は馬じゃない!!」
と、テオドールが声を張り上げる。
なんだ落ち着いてんじゃん。
なら今のはブラフ?どこまで本気なんだよ。
「まあ、とにかくです、テオドールさん、僕のことは憎くお思いでしょうが、手に掛けるわけにはいかないでしょうね。」
「何故だ!君も殺して私も死んでやる!」
「まあ、それでもいいですが、私を手に掛けると、王女殿下は敵になりますよ。」
「貴様!王女殿下のお気持ちを盾に取りおって!」
「そうでもしないと、落ち着いてくれないでしょ。」
「ぐぬぬ。」
ぐぬぬって。
まあ、話を聞いてくれんならそれでいいや。
「僕が思うに、テオドールさんはそのままで構わないと思いますよ。自分の気持ちを押し殺す方が不健全です。」
「私の手に入れられないものを、すでに手にしている貴様が何を言う!なにを言うのか!」
あれ?トミノ構文?
まあ、いいや、話を続けよう。
「昔、僕が読んだ本にありました。遠くの国にそう言った感情の発露を押さえず、むしろ積極的に行動して行く言葉が。それを推し活と呼んだそうです。」
「推し活…」
テオドールは俺の言葉を反芻する。
そのそばでオスカーは知らん言葉と言わんばかりに首をひねっていた。
その方が良い、お前がでしゃばると今は不都合だからな。
「ある者は、推す対象者が何らかの公の行動をとった時に、自分が出来る範囲で応援や援助をし、ある者は対象者に似せた小さな人形と寝食を共にし、ある者は只々その対象者のことを思い、対象者の生き様を自分の原動力としたそうです。そう、人形以外の例は、すでにテオドールさんがやっておいでのことじゃないですか。これによって、周りの影響により荒んだ心を癒す一端になったそうです。あなたの行いは無駄でも恥ずべき事でもないのです。」
「そうか、確かに私が王女殿下を思うようになって、実家に対しての苦痛が和らいだような気がしたな。そのお陰だったのか。推し活か。続けても王女殿下の迷惑にならないだろうか?」
そうテオドールが聞いてきたので、
「今の様に陰日向に見守っている分には平気なんじゃないですかね?なあ、オスカー?」
「私は知らん!自分の預かり知らぬところで、他人が物思いに耽るなど、怖気が走るぞ!」
オスカー!!だからテメーは空気を読めと、さっき言ったろうが!!
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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