269.アベル君と、国家機密と友情と。
269.アベル君と、国家機密と友情と。
「そんなたいしたことじゃないですよ。」
俺がフランクな態度でテオドールにこう言うと、
「たいしたことだよ!ありえないから!殿下を呼び捨てにするのも、大貴族の子供が親の謁見に付き合って知り合い、そこからの約束という事なんだろうと思って目を瞑ってきた。しかしなんだい?五歳児が陛下に謁見して交渉事!?夢物語じゃないんだから!」
ああ、ここまで真っ当な人は久しぶりなんじゃなかろうか。
身近な人間は、ロッティーが先に生まれたこともあって、子供の俺が老成していてもそんなものだくらいにしか思っていなかったようだ。
王宮についてもそう。
あそこは魔窟だ。
もちろん王宮に入る人間は、間違いなくチェックはされるが、王宮に来る人間たちも根回しはする。
だから、少なからずまっとうな人間ばかりではない。
魑魅魍魎とは言わんが、さまざまな人間が行きかう。
だから、俺のようなイレギュラーは稀ではないのだ。
俺ほどの人間はなかなかいないがな。
それらと折衝をする王宮の官僚や、それを取りまとめているセントクレアの爺ちゃんが真っ当なはずがない。
もちろん、その上の王もだが。
そういう連中を突き崩すには、正論パンチの連打もまた一つの手なのだが、それの話は蛇足だな。
「まあ、そういう人間もいるってことで納得してもらうしかないよな、オスカー。王宮なんて僕以上の妖が跋扈するところだしな。」
「王宮をお化け屋敷みたいに言うのは止めろ。100%違うとは言えんが。テオ、アベルは特別なんだ。何から何までな。貴様の尺度も変えねばならんくらいに。ちなみに、大臣クラスの貴族たちは皆アベルの顔も名前も認識済みだ。先程の入学式ではおくびにも出さなかったが、ウォルフガング侯爵など、孫のように可愛がっているぞ。もちろん、パーシー公も認識済みだ。尤も(もっとも)こちらは忌々しいガキだと思っているようだがな。」
「はあ、まるでアベル君は国賓扱いじゃないですか。」
テオドールが疲れた顔で言い放つ。
「テオドールさん、それは違う。僕の口から言うのはあれだが、危険分子扱いなんだよ。たぶん四六時中内務大臣の草が張り付いていると思うよ。」
俺は自分が認識している通りのことを嘘偽りなくいった。
それを聞いているオスカーは、露骨に嫌な顔をする。
「それってアベル君は平気なのかい?四六時中見張られているって事だろう?」
テオドールが素直に聞いてくる。
「平気ではないですね。でも仕方ないとも思っています。やって来た事と、能力がまあ、馬鹿げているので。」
「その馬鹿げた内容を…いや聴くときっと僕も後戻りできないんだろうな。」
テオドールは聞くのを踏みとどまった。
興味本位で、国家が行っているミッションを聞いてはいけない。
それが正解だ。
「テオ、興味があるのか?教えてやるぞ。まず最初に、アベルが派手にやった事象としては…」
「オスカー、やめろ!聞かないって、テオドールさんが言っているじゃないか。」
「何故だ!アベル、今私が言おうとしたのはお前の功績だ。貴様は決して危険人物などではないことを私が証明するのだ!」
「その功績はな、オスカー。敵に向けられたから功績なんだ。その力が自分たちに向けられるかもしれない。そう思うから監視を止められんのだ。僕が敵意を持っていないと知っていてもな。為政者とはそういうものなのだろう。だが、ありがとう。オスカー。」
俺が礼を言うと、オスカーは俯き目をぬぐう。
こいつもこんな熱いものがあるのだな。
友か、友ねぇ。
お互いの出自が特殊じゃなきゃ、もっと楽しかったろうにな。
「でだ、話をもとに戻すぞ。オスカー、いつまで泣いてんだ。顔を上げろ。」
「泣いてなどおらぬ!」
そう言って、オスカーは歯を食いしばって面を上げる。
まあ、目は真っ赤だし、涙の痕は付いているし、鼻水が出ていて、美男子が台無しだがな。
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本作は長編となっています。
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