268.アベル君とオスカー君の反省会。
268.アベル君とオスカー君の反省会。
「私の何処を反省せよと言うのだ!」
オスカーが喚くが、直ぐに釘を俺は刺す。
「まずそれだ。顧みろ。自分がなんで拗れたのかを、まず顧みろ。」
「では最初は何が駄目だったと言うのか?」
「お前、一から十まで聞く気かよ。それでよく今まであの魔窟のような王家で生きてこられたな。」
「いや、待て、最初に貴様をここに連れてきて、貴様に叱られたのだったな。何故皆に話をとおしてなかったのかと。」
「覚えていたか。そうだ。まずそれだ。根回し。何は無くてもこれだぞ。」
「根回しとは、実際にどうすればよいのだ?」
「では今回の例でやってみるか。僕が言うのもなんだが、僕はこの学校に発動された大型魔法みたいなもんだ。触れば爆発する。オスカー、お前がこの学校の中で一番詳しいはずだが。」
「確かに私が現時点でこの学校では詳しかろう。だが、貴様が来ると知って、言うも憚れるが嬉しかったのだ。浮かれてしまった。そしてだまし討ちで騎士学団幹部会に入れれば、貴様も会の連中も喜ぶと考えた。まるで逆であったが。」
「だろ?そこで根回しなんだよ。その幹部会やらに、話をとおす。フランカには出来て、なぜ僕に出来なかったのか。まあ、さっきその恥ずかしい内情を語ったな。」
「うむ、なるほど。皆にあらかじめ話を通せば貴様も頑なになることもなく、ルーカも貴様を見て憤ることもなかったやも知れぬな。」
ん?
「えっと、ルーカって誰?」
俺は知らない名詞が出てきたことが不審になり、誰と話に聞いてみた。
「君がぶっ飛ばしたやつのことだよ。ルーカ・アルディーニ。アルディーニ家は聞いたことはないかい?ルーカを縮めてルカって皆が呼んでいるんだ。しかしアベル君、根回しを尊ぶとか、どこかの大店の番頭でもやったことがあるのかい?」
「十五年貴族一筋ですけどね。あ、嘘だ、五年間は冒険者でした。でも尊ぶべきはそれだけじゃないですよ。」
「商人的考えで言えば重大なのがあるね。」
そう言ってテオドールは頷いた。
「なんだと言うのだ、その重大なものは。」
オスカーも乗ってくる。
「段取りだよ。遠くの国の慣用句で段取り八分っていうくらいだ。」
俺は古より伝わる、日本の慣用句をオスカーたちに教えてやった。
「段取り八分か。そりゃ言えているね。アベル君はいろんなことを知っているなぁ。」
テオドールが俺を持ち上げるが、それはそんなおべっかには乗らない。
「エヘッ!そうでもないっスよ。」
「テオよ、これがアベルの恐ろしいところだ。並みの知能ではないと見せかけ、即座に幼児化してしまう。アベルの本性を暴くのは容易ではないとカレッド伯爵などが評価しておった。」
なに、人の噂話で一国の王子と内務大臣が盛り上がってんだよ。
まあ、平和な証拠か。
いや、俺のことを不穏分子だと思っているのだな、そうなのだな。
「とにかくだ、オスカーはそれらを怠り、なんだっけ?俺がぶっ飛ばした…」
「ルカ。」
即座にテオドールが補完してくれた。
「それ。ルカの反発を呼ぶことになった。おまえ、途中まで気付いていなかったろ。なんかじゃれているくらいにしか見てなかったよな?」
「いや、初対面で喧嘩などする筈が無いと思ったのだ。王宮ではありえないのでな。」
「当り前だ。王宮でこんな騒ぎ起こしてみろ。即内乱だぞ。まず空気を読め。段取り、根回し、雰囲気を読む。これが危機を避け、交渉事をうまくこなす為の必須事項だ。まあ、全部そつなくこなす人間はなかなか居ないがな。ね、テオドールさん。」
「まあ、そうだね。いるとしたら稀代の大店とか、アベル君の母方のお爺さん、セントクレア宰相閣下とかかな。」
「オスカーのお父様も相当ですよ。」
俺がこう言うと、テオドールは目を見開いて、
「アベル君は王陛下と何度か謁見したとは聞いていたが、交渉事もしたのかい?」
こう聞いてきた。
まあ、当時の五歳児が色々やらかして、都度呼び出され、言い訳をしていたなんて、信じられないだろうがな。
「アベルは十年前、サイネリアに逗留していた当時、問題を起こしてばかり起こしていてな。父上にその報告ばかりしておった。そのついでに私とオリビィとよく遊んだものだ。なあ、アベル。」
引っかき交ぜるのか、昔を懐かしむのかどちらかにしろよ、オスカー。
「本当に謁見していたんだ。五歳で。君は何者だい?まったく恐ろしい新入生が来たものだよ。」
テオドールが拳を握りこみ、わなないでいた。
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