ローズの回想5
リサの後ろを歩いていると
「さあ、お嬢様が待っている。」
と言って歩くスピードを速めます。
「シャーロット様って言ってましたよね?」
私も遅れないように歩みのスピードを上げながら聞いてみます。
「そう、あなたと同じ4歳だけど、とても頭が良い女の子。3歳の時に図書室にある大事典をあっという間に読んで、隅から隅まで忘れずに覚えてる。凄い。」
リサはそう言って教えてくれます。
「私はまだ文字の読み書きができないのに。」
私がそう言うと
「お嬢様が教えてくれる。算術も。」
と、リサが言います。
「読み書きも算術も、私と同じ4歳の女の子が教えてくれるんですか!?」
私はびっくりして立ち止まりました。
「立ち止まってはダメ。急ぐ。でもそう、あたしは教わっている最中。教え方もとても上手。楽しく覚えられる。」
また私は歩きながら、驚きつつリサの言葉を聞きました。
「奥様たちは、あたしをメイドというより子守か遊び相手としてお嬢様のお付きにされた。でもお嬢様は違う。もう子守なんて本当はいらない。自分がいろんなことを覚えるのを助けてくれる人なら、誰でもいい。そんな女の子。」
そう言って、扉の前で止まりました。
リサはノックをし
「お嬢様、リサが参りました。」
そう言って部屋の中をうかがいます。
「おはいりなさい。」
と可愛らしい小さな女の子の声が、部屋の中から聞こえてきました。
リサがドアを開けると、そこは明るい子供部屋って感じの部屋が広がっていました。
そこに子供部屋にはそぐわない大きな本を広げている女の子がぽつんと座っています。
女の子は装飾がほとんどついていない、シンプルな白に近い淡いベージュ色のドレスを着てました。
そして一見地味に見えるそのドレスは、女の子が持つ華やかさを引き立て、とてもよく似合っていました。
そんな彼女に私は思わず見とれてしまいました。
「お嬢様、お待たせいたしました。」
リサは深々とお辞儀をして部屋の中へ入っていきます。
「うん。」
女の子はそう頷いて、顔を上げます。
そのお顔はアリアンナ奥様の面影を持ち、とても可愛らしいお顔でした。
そして私に気づくと
「リサ、後ろの子はどなた?」
それを聞いたリサは
「お嬢様、こちらが先ほど雇われたばかりのローズです。ローズ、こちらがシャーロット様です。ご挨拶してください。」
と、言いました。
私は
「ローズと言います、4歳、オオカミの獣人族です。よろしくお願いします!」
元気いっぱいお辞儀をしながら、シャーロット様にご挨拶をしました。
シャーロット様はそれを聞くと、ちょっとだけ目を見開いて
「うん、あなたが母様のお腹の子のお付き候補ね。私はシャーロットよ。あなたは私と同い年なのね。こちらこそよろしくね。」
そうおっしゃいました。
「そのお腹のお子様がお生まれになるまで、あたしと一緒にシャーロット様のお付きのお仕事をしながら、メイドの仕事を学ぶようにとマーガレット様に仰せつかりました。」
と、リサがシャーロット様に説明します。
「うん、ではローズもいったん私のお付きになるのね。歳が近い子がいてくれるのは嬉しいわ。ローズ、リサをよく見て学んでね。」
そうシャーロット様がおっしゃると、本の方に目を向けました。
「また別の本ですね。」
そうリサが聞くと
「あなたが居なくて暇だったから、ヨハンに持ってきてもらったの。」
それを聞くと私が
「何が書いてあるご本ですか?」
と、聞いてみました。
シャーロット様は
「興味ある?ここ、ノヴァリス王国の歴史の本よ」
と、本から目を外し、私に顔を向けておっしゃいました。
「歴史ですか?」
私は今まで聞き覚えのなかった言葉に首をかしげました。
「歴史というのは、この国が出来てから起きたことが書いてあるお話みたいなものかしら。ノヴァリス王国は1500年前から続いているの。ノヴァリス英雄王様たちがどのような目的で国を作り、どのような歴代の王様たちが、どのようにこの国を守って来たか。良かったことも悪かったことも全部書いてあるわ。エルフの大長老様はそのノヴァリス王国のすべてを見てきたそうよ。」
その話を聞いて私は1500年という月日が想像もできず気が遠くなる思いがしました。
「1500年もあるから、当たり前だけどこの一冊じゃとても収まり切れないの。百冊以上はあるのかしら。暇つぶしにぴったりだったの。」
そう言ってシャーロット様は目をつむると
「のどが渇いたわ。リサ、お水をちょうだい。」とおっしゃいました。
リサは
「かしこまりました。」
と言うと、伏せてあったコップに大きめの水差しから水を注ぎ、シャーロット様に差し出しました。
「ん、ありがと。」
と、可愛く言ったシャーロット様は差し出された水を一口含み
「お話でもしましょうか。」
と、おっしゃるのでした。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。