表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
279/366

266.アベル君と正論と感情。

266.アベル君と正論と感情。




 「本当にやるつもりか?」

 オスカーが俺に問いかけてくる。


 「殺されそうになりましたからね。」

 俺は至極まっとうな返事を返した。


 その答えを受け、オスカーの眉が跳ね上がる。

 「仕返しはしたはずだ。」


 「殺していませんが?」

 アホか、向こうは刃物でこっちは手のひらだ。


 掌底だけども。

 「そういうことを言っているんじゃないだろ。」


 オスカーの眉間に皺が寄る。

 「では、どういうことを言っておいでで?」


 「そこまで大事にするなと言っている。」

 オスカーは唸るように言葉を口にする。


 「では僕が殺されるのは大事ではないとおっしゃるのですか?」

 「貴様!そんなことは言っておらんだろ!」


 オスカーその美しい顔をゆがませ俺に怒鳴った。

 しかしだ、譲れんものはある。


 「いえ、そのようにとらえられるお言葉だったので。」

 「貴様は大切な親友だ、私がそのように思うわけなかろう。」


 オスカーは絞り出すように言う。

 しかし、そこに俺は畳みかけた。

 「では王子殿下は何が正解だったとおっしゃりたいのです?私は王家の忠実なる臣でございます。これから先も王家を見守り、支え続けていかなければならぬ身でございますれば、正式なお世継ぎである王子殿下を支え続けなければなりますまい。戴冠するという未来において、こういう事案も勿論あるでしょう。その時も勿論私は忠実な臣として、王子殿下の指示に従うでしょう。ですからここで一つ、何が王子殿下にとって正義なのかお聞かせいただきたく存じます。」


 俺の言葉を聞いたオスカーは顔をゆがめ、俯いて震えていた。

 静寂した室内に、いきなり笑い声が響いた。


 「ハハハハハ、凄いなぁ、アベル君。さっきの事件を、王家の正義、その定義にまで昇華させるとは。」

 あれ?他の者は倒れた奴を運びに行ったんじゃなかったのか?


 気配を消し、身を潜めていた?

 なんだ?こいつは。


 「ほら、王子殿下が固まっておいでだ。あまり正論で追い詰めたりしてはいかんよ。いくら優しい王子殿下でも混乱を生じるやもしれない。」


 「失礼ですが、どちら様ですか?」

 俺は隙を見せないようにゆっくりと聞き、相手の動向を探る。


 「おっと、失礼。私も張り倒されるのは御免だからな。はじめまして、アベル・ヴァレンタイン殿。私はテオドール・エルゼン。東の湾岸で貿易商家を取りまとめる、しがない子爵家の嫡男です。どうぞ、よしなに。」


 背は180cm越えてるな。

 比較的やせ形、でもガリではない。


 短くクルーカットにしている頭髪、その下の顔には意味の分からん笑顔が張り付いている。

 ニコニコとしている糸目には、長いまつげが覗いている。


 一見柔和、その笑顔が消えた時、どんな目付きになるか見てみたいね。

 なるほど、この風貌、そして名前、聴いたことがある。


 海外貿易を行うため、東の湾岸に大きく深い桟橋をいくつも作り、巨大な港を作り上げた。

 そのアイディア自体を発案したのは、英雄王ノヴァリスだったらしいが、それを行動に移したのは慧眼だったのであろう。


 見る見るうちに資金と人が集まる巨大な湾岸都市が出来たのだ。

 それを成し遂げた貴族がエルゼン子爵だ。


 そこまでの大事業をやり終えたのに、あえて子爵の地位で収まっているのは、中央での政治に加わりたくなかったって事だろう。


 彼の名前も噂で流れてきていたな。

 かなりの切れ者だって話と、あと、俺と同じで二つ名付きだ。


 「はじめまして、湾岸の貴公子殿。改めてご挨拶申し上げる。私は北の大地より参った、アベル・ヴァレンタイン。まあ、北の荒れ地で生きるために、気性が荒くなった人が多く住まう地域の出身ですから、その気性の強さに揉まれ、ついこちらも手が出てしまう性分になってしまいました。出来る限りそういう真似はしないつもりなのだが、何かあったご容赦願いたい。」


 実際はそんなことないよ。

 一番怖いのが中央育ちの母さんなんだからね。


 「おやおや、ヴァレンティアの至宝に知って頂けているなんて光栄だね。もっとも私はその二つ名は気に入っていなくてね」

 「偶然ですね、私もその二つ名は迷惑なんですよ。」


 テオドールはことさら大げさに驚いて見せ、

 「おお、君もですか。本人のあずかり知らないところでこんなものは付けられるから、いささか迷惑でね。まして貴公子などと言う名前は、私には重荷でしかない。君には分かっていただけるかな?」





 禿同。



読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ