264.アベル君と王子と取り巻き。
264.アベル君と王子と取り巻き。
俺とフランカはオスカーの後ろについて校内を歩いている。
オリエンテーションがあるんじゃなかったっけ?
「オスカー、学校の説明会があるって教師が言っていたが。」
「ん?ああ、それは騎士学団で教えてやるよ。」
「で、お前の取り巻きは何人いるんだよ。」
俺は率直な質問をぶつけてみる。
「アベルは相変わらず口が悪いな。取り巻きではない。みんな優秀な団員だ。まあ、人数は五人だな。貴様らと私を含めれば八人になるのか。」
なるほど。
「男女比は?」
「男が三人、女性が二人だな。」
オスカーが内訳を答える。
へー、バランスは悪くない。
俺とオスカー、フランカが入って五対三か。
俺はまず起こさないが、恋愛事情や貴族同士のパワーバランスがいざこざの切欠になるかもしれない。
もう燻っていたりして。
なんたって、最高指導者の嫡男と一緒なんだ。
誰が一番取入るか、競争が有っても不思議ではない。
そこにフランカが入ることで平民というスパイスも加わる。
面倒ごとの巣窟なんじゃないか?やっぱ、抜けたいんだが。
「さあ、着いた。開けるぞ。」
そう言ってオスカーはドアを開けた。
もわっと何かの臭いが立ち込めてくる。
香水かよ。
騎士に修練する場所に居るのか?こんなもん。
デオトラント的なものか。
それなら納得だが、いささかキツ過ぎないか?
俺の顔が渋い顔でもしていたのか、オスカーが何事かと聞いてくる。
「どうした、アベル?そんな渋い顔をして。」
「ああ、ちょっと臭いがな。」
「それか。最近の流行りでな。どうしても汗臭くなるから、それをごまかしているんだ。特に女性がな。」
「なるほど。」
やっぱりそんなところか。
ヨーロッパで香水が流行ったのは、ベルサイユ宮殿にトイレが無かったせいだっけ?
ま、関係ないことはいいから、中でも見るか。
オスカーとそんな話をして室内に入る。
そこには五人の男女がコの字型に並べられた、それぞれの席と思われるところに座って談笑をしていた。
まあ、雰囲気は今のところいいな。
俺たちが入ると一斉に立ち上がり、男性はお辞儀を、女性はカーテシーでオスカーを迎え入れる。
ああ、カーテシーって言っても、制服のスカートだから、形ばかりだけどね。
だが、オスカーが取り繕ったところで、やっぱり王族に対しての態度じゃんよ。
俺はシラケた心をおくびに出さず、オスカー後ろで立止まっていた。
「なんだ?アベル、人見知りか?そんなとこに居ないで、私の横に来い。」
それが嫌だから後ろに居たんだろうよ。
しかしここで逆らっても無用なトラブルを引き込むだけだ。
爺ちゃんにも言われたからな。
俺は黙ってオスカーの隣に立った。
しかしフランカは俯いて後ろに立ったままだ。
「フランカさんもこっちにおいで。」
俺はフランカを呼んだ。
「いえ、でも。」
そう言って立ち止まったままいやいやと首を振る。
「さっき王子殿下が仰ったじゃないか。一生徒だって。」
俺がこう言うと、オスカーが続けて。
「アベルの言うとおりだ。まして私たちは騎士学団の仲間になるのだ。改まる必要はない。」
そう言われて、フランカはおずおずと俺の隣に立った。
「さて、皆に紹介しよう。私の隣に居るのがアベル・ヴァレンタインだ。有名人だからな。名前は聞いたことがあるだろう。彼をこの騎士学団幹部会に入れようと思う。」
ん?ちょい待て。入れようと思うだと?
オスカーお前、この中の人間の承認を得ずに俺を入れようってのかよ。
「失礼ですが、王子殿下、宜しいでしょうか。」
「ん?何だアベル。もう文句か。お前は子供のころから文句が多かったものな。」
うるせえ!お前が横柄だったせいだろ!
「私の入団に際し、こちらの皆様の承認等はなかったのですか?」
「いや、フランカは承認を取ったが、貴様はない。まあ、いいから挨拶しろ。」
クソッ!やっぱりこいつを昏倒させておけばよかった。
「私はきたのヴぁれん・・・」
「一閃の剣の子息様ってか。十五歳で二つ名持ちの坊ちゃん。」
おっと、いきなり洗礼が来やがった。
北の人間じゃない。
南か。
「失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「大貴族様に名乗るような名は持っていなないよ、国内随一の魔法使いのお子様。」
「左様ですか。では貴族ではなく、民草という事ですか?」
「面白いことを言うねぇ、さすが宰相閣下のお孫さんだ。残念ながら否だな。一応貴族でね、それなりに食べさせてもらっているよ。」
「なるほど、貴族の身であっても、私に名乗る名はないと申されるわけですね。」
「まあ、そういう事になるかな。お坊っちゃんはこの部屋には似つかわしくないって意味でね。」
「おお、それはありがとうございます。つい 先ほど迄思っていたことを仰って下さった。その言に従い、私はお暇することにいたします。それでは皆様、ごきげんよう。」
そう言って、俺はドアの取っ手に手を掛けた。
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