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263.アベル君と騎士学団。

263.アベル君と騎士学団。




 俺はパオロと別れを告げて、オスカーの待つ演台へと向かった。

 まあ、絡まれるとは思っていたけれど、ちと早すぎるな。


 そのオスカーは今の俺の気持ちを知ってか知らずか、美形の顔を明るい笑顔に変え新入生の女子にキャーキャー言われている。

 相変わらず空気の読めん奴だ。


 そんなことを思いながら歩いていると、人影が近づいて来た。

 「ア、アベル様、よろしいでしょうか?」


 ん?そこには見知らぬ少女が俺の後をついてきた。A

 「なんだい?何か用かい?」


 俺は歩きながら聞いてみる。

 「わ、私はフランカと申します。先ほど王子殿下に名前を呼ばれた。」


 ほう、この子が。

 さっきは顔が見える位置じゃなかったから確認はできなかったが、なかなかどうして美人さんだ。


 「そのフランカさんが僕に何の用だい。急いでオスカー王子のもとへ行かなければマズいんじゃないのかい?」

 「い、いえ、その、私なんかがその、騎士学団なんかに入っていいのかって。」


 なるほどね、オスカーが認めた才女であっても、自己肯定感はそこまで高くないってことか。

 「まあ、そう言われてもね、オスカー王子に呼ばれた以上僕らに拒否権はない。平民であっても貴族であってもね。」


 「そうですね。」

 彼女は一言そう言って、前を向き歩き出した。


 ああ、やっぱりここ一番の胆力のある子だ。

 この子は伸びるかもしれないな。


 まあ、俺自身も人を導くような歳でも経験もないんだが。

 中身アラフィフとか言うな!


 新入生の中を縫うようにして、俺たちは正面の演台に向かう。

 その時点で衆目にさらされる。


 もう目立たないようにする事態が無駄なのだ。

 見たけりゃ見りゃいいさ。


 フランカを見て口笛を吹く男子生徒、俺を見て黄色い声を上げる女生徒。

 「あれがヴァレンティアの至宝かよ。」


 もうこの呼び名もすっかり定着してんな。

 みんなギルおじさんの所為だ。


 そして演台に着いた俺たちを、オスカーは拍手で迎えた。

 「やあ!よく来たね。」


 よく来たねじゃねーよ!お前が呼んだんだろうが!

 「諸君らに紹介しよう。さあ、二人とも演壇に立ってくれ。」


 そう言われ、俺たち二人は仕方なく演壇に登る。

 「では女性の方から紹介しよう。彼女が先ほど言ったフランカ君だ。済まんが一言挨拶いいかな?」


 そのオスカーの言葉を聞いて、先ほどの胆力はしぼみ、フランカの顔は途端に引きつり始める。

 やっぱりオスカーの野郎はガキの頃から変わってない。


 人の気持ちの機微ってもんを読もうとしない。

 あくまで自分勝手だ。

 

 面倒だから気絶させてしまおうか。

 しかしもうこの魔法使うのバレてんだよね。


 「目の前の生徒たちなんて、剣術練習の木人だと思えばいい。一回腹の中で気合を入れれば落ち着くはずさ。」

 俺は彼女の耳元でささやいた。

 

 フランカは俺の声に最初ビクッ!ってしたが、一瞬目を閉じ精神統一を図っているようだった。

 そして拡声魔道具を受け取ると、


 「フランカです。北のヴォルグレット領から来ました。よろしくお願いいたします。」

 そう言って手短だが、ハッキリした挨拶を終えると、手早く俺に拡声魔道具を押し付けてくる。


 ヴォルグレッド?エレナの親父さんが納めている領地じゃないか。

 世間は狭いもんだな。


 「ほら、アベル、何している。早く自己紹介をしろよ。」

 はいはい。


 「私は北の大地、ヴァレンタイン辺境伯領から参りました。アベル・ヴァレンタインです。皆さんよろしくお願いします。あ、言っておきますが、この空気も人の気持ちも読めないそこの金髪のクソガキとは親友ではありませんから、あしからず。」


 俺の言葉にその場が凍り付いたような静寂が訪れる。

 しかしその静寂を壊したのが、さっき紹介したクソガキだ。


 はっはっはと爽やかな笑い声を発すると、

 「相変わらずアベルは手厳しいな。確かに子供の頃の私は横柄なところもあったが、今は立派に更生したと思うのだが。」


 「どこが更生したというのですか。私の家族や現状の身分まで暴露した人が。」

 俺はそう言ってオスカーに食って掛かった。


 「いや、だって面白いじゃないか。」

 はぁ、こいつ言うに事欠いて!


 「いやいや、私だって子供の頃に貴様に雪だるまにされた意趣返しをしたいってずっと思っていたんだ。」

 そう言ってオスカーは首を振る。

 

 言葉遣いも子供の頃に戻ってやがる。

 「その後のことがあるじゃないか!」


 俺もつい声を荒げると、

 「アベル、それは秘匿事項だ。わかるだろう?まだ解決していないんだ。」


 おっと、それはまずい。

 「失礼たしました。」


 なんて俺たちのやり取りを、生徒たちはもちろん、教師も隣に居たフランカも目を丸くして固まってみていた。

 「やり過ぎたか。」

 

 俺が言うと

 「盛大にな。」




 オスカーはそう言ってまた笑うのだった。








読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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