260.アベル君と使用人という名の家族。
260.アベル君と使用人という名の家族。
貴族が平民、まして妾に頭を下げるなどあるわけないことだ。
「シャーロット様、おやめください。」
ローズはロッティーに駆け寄って頭を上げさせようとする。
頑なに頭を上げないロッティーに対しローズが
「分りました。アベル様は私が責任をもって引き受けます。シャーロット様、受け入れて頂き有難うございます。」
そう涙ながらにローズがロッティーに宣言した。
俺ってモノなの?
あっちこっちに受け継がれるものじゃないんだがな。
いや、彼女らの言いたい事は分かっているからね。
だから口に出さにわけだしさ。
思うくらいいいじゃんよ。
「アベル!私の親友を泣かしたら承知しないわ!」
いきなりロッティーは面を上げ、俺の目を見つめ言い放った。
「そのつもりだよ。この前まで我慢続きの日々だったからね。これからは僕と一緒で幸せだって思っていただく程度にね。」
「そう、わかったわ。」
そう言ってまた静かにロッティーは椅子へ座った。
「ああ、姉さん、たぶん僕オスカーに絡まれると思うんだけどどうする?あしらっとく?それともキッパリお断りする?」
「いずれにしてもちゃんとしなければならないわ。それに王陛下がどう考えておられるかが問題だし。本当に私を受け入れたいのなら、私に断る権限はないでしょう。ただそれだと色々また面倒なことが起こる。アベル、あなたの正室、仮に王女殿下がなるなんて話までかかわってくる。簡単じゃないわ。」
「俺たちの北と、パーシーの爺さんの南の確執が深くなる恐れがあるからね。この前セントクレア邸で王女殿下は王妃陛下と婆ちゃんにそのあたりのレクチャーを受けていたけれど。姉さんと僕が両方なんてことになったら、反発多いだろうな。」
「お主らが優秀なばかりに、家の煩わしいところを担わなければならないとは、因果なものだ。」
「爺ちゃんも何かしらの衝突はあったんでしょ?」
「儂は武の人間だったのでな、政治的衝突にはならなんだ。ローランドもすぐに冒険者になったからの。まあ、奴は今苦労しているが、アベルが官僚制を敷いてくれたおかげで喜んでおろう。」
「父さんは爆弾事件の時に、パーシー公爵と相対したみたいだけどね。最後は公爵が癇癪起こして部屋から出って行ったみたいだけど。」
「そこらへん、お主らは当事者だろうが、ローランドの領域だからな。あまり目立ったことをしないように。良いな。とりあえず、今日は王城へ行く予定にしておったので、陛下に如何様になっているか聞いて来よう。」
「はい、僕もセントクレアの爺ちゃんから王陛下から呼ばれるだろうって言われているから、ちょっと探りくらいは入れてみます。でも、陛下も狸だからなぁ。セントクレアの爺ちゃんほどじゃないけど。」
「陛下もウイリアム卿も宮廷政治が主戦場であるからな、いささか底が見えなくなるのも仕方なかろう。それから、南からの生徒もたくさん来ると思うからな。いちいち衝突するでないぞ。いつものように余裕を持つように。ローズにも気を使ってやれ。素性を知ればちょっかいを掛けてくる輩も居ろうからな。」
「はい。あ、ごめん。食べよう。」
俺のこの言葉で家族が一斉に食事に取り掛かる。
この風景もしばらく見られなくなる。
まあ、同じ町に住んでいるし、休日は帰ってこれるらしい。
また、条件が合えば寄宿舎でなくても通えるんだとか。
今となってはどちらでも構わないけれどね。
「休みには帰ってくるんですよ。」
食事を終えたロッティーがアンネを連れ立って玄関へ向かう。
「アベル様、休みに会えますよね?」
アンネが無邪気に俺に聞いてくるので、
「何事もなければ帰れると思うよ。」
「はい!待っています!」
そう元気に言ってロッティーとアンネは馬車で魔法大学校に向かった。
「爺ちゃん、僕らもそろそろ向かいます。」
俺は爺ちゃんに向かって言った。
「うむ、さっき言ったことを忘れるでないぞ。」
爺ちゃんはいつになく重々しく行って、俺を送り出す。
「はい、それはしかと。それでは。」
俺はそう言い終えて、振り返り後ろで控えていたローズに頷く。
「それではご隠居様、アベル様と行ってまいります。」
そう言ってローズは爺ちゃんに深々とお辞儀をした。
そして俺とローズは馬車に向かった。
そこにはアーサー、フレイ夫婦他、使用人たちがそろっていた。
俺はあーとフレイに近づき、
「それでは家のことを頼む。」
そう短く言い終えると。
「任しておいて下せえ。」
アーサーも短く返し、フレイは、
「あまり学校で暴れないで下さいよ。私も卒業生なんですから。」
そう言って苦笑いした。
「善処する!」
そう言ってから俺は笑った。
ローズはミーたちメイド勢とのお別れを言って、馬車に乗り込んだ。
俺も馬車に乗り込み、程無く馬車が走り出すと、使用にが一斉に
「行ってらっしゃいませ。」
と言ってくれた。
永のお別れって訳じゃないんだけどな。
家の主人になるって、こういうもんなのかね。
俺はそう独り言ちながら、学校への道を馬車に揺られるのだった。