259.アベル君と家を出る朝。
259.アベル君と家を出る朝。
起きてから慌ただしくローズが動いている。
俺はそれを横目に見ながら制服の袖に腕をとおす。
「アベル様、靴が磨けました。」
「はい。」
俺は靴を受けとって履く。
「ハンカチは持ちましたか?ネクタイが曲がっています。御髪を直さないと。」
「ローズ、もっと余裕を持とうよ。荷物はもう寄宿舎の方に行ってんだし。あとは僕らの身一つだろ?」
「でも、せっかくの入学式ですし、キチンとしないと。」
「いつもキチンとしているつもりだけど。」
俺が不平を言ってみる。
「そうですけど、もっと。」
それに対し、ローズは何か焦った感じで返そうとしてきたので、
「はい、お終い。余裕なさすぎ。それじゃ変なところでポカをする。ダンジョンでも気が張り過ぎているとミスをしただろ?それと同じさ。もっと楽にしないと。どんと来いって。」
ローズは小首をかしげ、ちょっと考えてから。
「そうですね、そうでした。慌てたって良い事ありませんから。朝から騒ぎ立ててしまい、申し訳ありません。」
「仕方ないよ。初めての環境に身を置くんだ。緊張するのは仕方がない。」
「アベル様でも緊張なさるんですか?」
「でもってなんだよ。僕だって緊張くらいするさ。なんたって、今まで悪目立ちしてきたからね。同い年の男の子とも触れ合ってこなかったし。」
「そうですね、歳の近い子は、シャーロット様はもとより、私とリサ、アンネちゃん、みんな女の子でしたものね。」
「歳の近い男子で知り合いはもう騎士学校に入っているんだけどね。」
「ああ、オスカー王子殿下ですね。」
「そう、あまり関わりたくないんだけど、無理だろうな。姉さんにまだ惚れているらしいし。」
「シャーロット様はアベル様ぞっこんですからね。」
「困るんだよなあ。結局父さんたちが無理やりって話になると、可愛そうだしさ。この前みたいに泣いちゃうし。」
「そうですね、いっそ王子様がかっさらえばいいのに。」
「あら、自分の定位置築いたローズさんは余裕ですね。」
「それは十数年我慢してきたんですから、許してください。」
「まあ、そうだね。さて、そろそろ下に行こう。みんな待っているだろうかな。」
「はい。」
俺たち二人は自分たちの部屋を出て、食堂に向かった。
「まあ、アベル、よくお似合いよ。」
俺を見たロッティーが駆け寄って俺をいきなり抱きしめる。
まあ、この人のこの行動は、この家では普通の行動となっているから、別段周りは驚かない。
次の行動には皆引くんだが。
クンカクンカとロッティーは俺の首元の臭いを嗅ぎ始める。
「姉さん、いい加減それは止めた方が良いと思うよ。」
「なぜ?これが私の活力だもの。」
「ローズの臭いも一緒に嗅ぐことになるけれど?」
いきなりバッ!と顔を放したロッティーはローズをキッ!とねめつけ、
「ローズ、不潔よ!」
などと言うもんだから、爺ちゃんが大笑いし始めた。
「アベルもローズも、シャーロットにとっては幼子同然なのだな。」
そう言って笑っている。
なにも気にしない豪快な人だ。
スゲーよな。
爺ちゃんが大笑いしているので、ロッティーは興が削がれたのか俺を放した
「とにかく、アベルとローズは寄宿舎で公序良俗の規範に沿った生活を送るように。」
ロッティーはそう言うとさっさと自分の席についた。
公序良俗ねぇ。
「そんな、構内のあちこちでいちゃつく訳ないじゃないか。特定の場所にしておくよ。」
「むっ!!」
「もういい?姉さん。」
俺は話を一旦切り、
「爺ちゃん、姉さん、今日から僕は寄宿舎へと入ります。家を開けることとなりますが、何卒よしなに。」
そう言って二人にお辞儀をした。
「うむ、騎士学校何も自分の剣技だけを磨く場所ではない、同じ何かを分かつ者たちを持つ所だ。すでにアベルのことは知られていることだろう、そこには羨望も嫉妬もあるやもしれぬ。自惚れること無く、過度に敵対することもなく、学校生活を送るがいい。」
爺ちゃんはらしい訓辞を俺にくれる。
「ありがとうございます。肝に銘じます。」
俺はそう言って爺ちゃんに深々とお辞儀をする。
「私からは特にないわ。魔法と剣を使えるものはいないから、どう思われるかそれは興味があるわ。教師という立場から言うと・・・アベルは扱いにくくて嫌でしょうね。」
「なんだよ、爺ちゃんのような訓辞じゃないのか。」
「アベルには必要ないもの。でも、ローズ、弟をよろしくお願いします。」
そう言ってロッティーはローズに深々とお辞儀をした。
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本作は長編となっています。
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