257.アベル君と騎士団の詰め所。
257.アベル君と騎士団の詰め所。
「アベル坊!なんだこんな時間に!」
セイナリア騎士団長のバルドさんがそこに居た。
「こんばんは、バルドさん。何だも何も、さっき門番の人に言った通りなんだけどね。賊は馬車の屋根に乗ってるよ。」
「おい、馬車から降ろせ。」
バルドさんが後ろに控えていた部下の騎士に賊を馬車から降ろすよう指示する。
3人の騎士が馬車に近付き、作業を始めた。
「で、アベル坊、身に覚えは?」
「僕はないよ。家はあるかもしれないけれど、首を突っ込むなってうるさくてね。」
「そうだな、アベル坊が首を突っ込むと、あちこちの貴族の家が爆発しそうだ。」
バルドさんはそう言ってガハハと笑う。
全く失礼極まりないおっちゃんだ。
「とりあえず今日はこれだけでお暇していい?」
「おう、アベル坊のこっちの家にはエドワードもおるのだろ?」
「うん、何か月間は居るって。期日は決めてないみたいなんだ。」
「おう、そうか。じゃ、後で寄らせてもらう。行くときには先触れを出すからな。」
「はい、お待ち申し上げております。それじゃ。」
俺はバルドさんに軽く挨拶をして、詰所の椅子から立ち上がり、一礼してドアを開けようとした途端、忘れていたことに気が付いた。
「ごめん、バルドさんもう一つ私事なんだけど聞いてもらっていい?」
「おう、なんだ、改まって。構わんから何でも話していけ。」
「こっちに来るまで、僕が冒険者になっていたことは知ってる?」
「まあ、噂ではな。アベル坊もすっかり有名人だ。ヴァレンティアの至宝が深紅の大穴で暴れてるって話くらいは、こっちまで流れてくるな。」
「あんまり嬉しくないね。でさ、その深紅の大穴でドロップが出たんだよ。」
「ふーん。デカい金剛石か何かか?」
「ううん、黒曜鋼。」
「んだと!!本当か。」
急に食いついてきたバルドさんに俺はちょっと引いた。
「本当。今は持ってきていないからね。」
「うん、分かった。それでアベル坊の剣を打つんだな。その鍛冶屋を紹介しろと。」
「そう、バルドさんに紹介してほしくてね。お願いできるかな?あ、予備でもう一本、打てくらいの量は持ってきたよ。」
「そんなにか!いや、ここでそんな話をされたら収賄になりかねん。あとで聞こう。」
「そうだね、鍛冶師さんの紹介料として渡そうと思ったものでね、勿論タダで差し上げるつもりはないんだけど、こういう場合は慎重になるべきだよね。コンプラ的に。」
「こんぷら?」
「あ、何でもないよ。じゃ、家に来た時にでも詳しくってことで。」
「そうだな、そうしよう。気をつけて帰れよ。馬車の中のお嬢さんにもよろしくな、」
いつ見たんだ?
騎士団長恐るべし。
リラックスしたふうでも、周囲の状況には目配りしてる、しかも女だって気づいてるって。
このレベルの人達の領域には、まだまだ届かないね。
そんなことを考えながら、馬車に近付き御者さんに、
「帰ります。遅くなりましたね。」
俺がそう言うと、
「いえ、坊っちゃんはバルド団長ともお知り合いで。その歳でたいしたもんだ。」
「そんなんじゃないですよ、爺ちゃん二人が知り合いだったってだけです。」
「宰相閣下と、エドワードご隠居様なら、そりゃそうですね。あ、すみません。すぐ発車します。」
御者さんはあわてて準備を始めた。
そして俺はまた馬車に乗り込んだ。
「ふう。」
「お茶です。」
ローズがお茶を出してくれていた。
外の御者さんとの話が聞こえていたのだろう。
お茶の用意をしてくれていた。
ありがたい。
話し込んでいたから、のどがカラカラだ。
ああ、ちなみにこの馬車には、給湯魔道具と、お茶セットが常備されている。
貴族の馬車だから、それくらいはあるんだろう。
他は知らんけど。
「ありがとう。」
俺は礼を言って、お茶を受け取る。
その頃には、もう馬車は走り出していた。
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