252.アベル君と結婚と王女の感情。
252.アベル君と結婚と王女の感情。
もう、教育しとけよ。
王だって何人もいるって言っていたじゃないか。
ったくよう、このスチャラカ王家の人間たちめ。
「そのとおりです。私は彼女を娶ることを許されておりません。しかし、全力をもって彼女を庇護すると決めた所存です。」
「そのようなことが可能なのですか?」
「はい、可能です。実際に王陛下もなされておる様なので。王妃陛下にお聞きになれば教えて下さると思われます。」
「はい。わかりました。」
今にも笑い出しそうな顔で王妃が話を切った。
「アベル、そのような事を言って、黙って見ていた私に復讐しなくてもいいじゃないですか。」
オホホと王妃は朗らかに笑いだした。
「王家と貴族の在り方の教育を、私がする必要もないなぁ、って思いましたので。」
「オリビィ、ローズの様な立場の方は、王陛下にもいらっしゃるわ。あとでどういうものか教えてあげる。だから、アベルとは婚姻できるはずよ。ねぇ、クリス夫人?」
「そうですね。制度的には婚姻できるでしょう。ただ、立場的には難しいかと。」
「クリス夫人、なぜです?」
王女が婆ちゃんに問うてみる。
「アベルが臣下だからです。しかもヴァレンタイン家という力も財力も有り余る大貴族だからです、王女殿下。」
「そのような貴族ならば、逆に私の様な立場の人間に釣り合うのではなくて?」
「そう考えることも可能でございます。しかしながらそんなに単純な事ではありません。王女殿下がヴァレンタイン家に嫁ぐとういうことは、ヴァレンタイン家と王家の結びつきが強化されることになります。ここまではお分かりになりますね?」
「はい。」
まるで分からなかった問題が解けた塾の生徒の様に王女は返事をした。
「あまりにヴァレンタイン家が力を持ちすぎると、それに反発する家も出てきます。なぜなら、ヴァレンタイン家の力が強すぎて、このノヴァリス王国を牛耳るのではないかと勘繰る者たちが居るのです。」
「アベル様ならそうはなさらないでしょ。」
「アベルもヴァレンタイン家の方々も聡明でありますから、そのような事はしないと私自身は信じております。しかしながら、世間、主に他の大貴族はそうは思わないかもしれません。」
「それはどちらの貴族なのです?」
「それを答えるわけには参りません。下手に言えば、私が王女陛下に有りもしないことを吹き込んだと責められる恐れもありますので。」
「ここまででいいでしょう。」
王妃が二人の会話を断ち切る。
「オリビィ、分かった?アベルとは制度的には結婚が出来る。でもね、他の貴族の感情的には難しい。理解できたかしら。」
「では、その貴族たちの感情を変えればよろしいのですね。」
「まあ、それが貴女に出来るのかしら。どうやって?教えてくれない?」
「それはまだ分かりません。でもいつか、私もアベル様の隣に立ちとうございます。」
そう言うと、王女は大粒の涙を流し始めた。
婆ちゃんは慌てて王女にハンカチを差し出し、王妃は王女の肩を抱いて背中をさする。
爺ちゃんは俺の顔を見て困ったような顔をした。
俺も困る。
そして俺は、面倒くさいなぁと考えていた。
王女の気持ち如何で国が割れるなどと言うことは、まかりならんよ。
そうだろ?
王家には国家を治める責任があり、それは何と言っても国民の安全を担保する事に他ならないのだ。
それを一人の感情で、無に帰すなど待ってのほか。
そういう危機を回避することが出来るのが王家、王の絶対的権力だ。
政治的圧力、軍事的圧力、またその両方をもって反発する勢力を制す。
それが王の考え一つで出来るのが、専制政治唯一の利点なんだ。
まあ、爺ちゃんと王はその調整に奔走ばかりしているらしいけど。
この様なパワーバランスは人間が生きている以上どこでも起こり得るものだ。
なぜなら人間とは、マウントを取りたい生物だから。
誰よりも強くなりたい、権力を持ちたい。それに付随して金持ちになりたい。
今挙げたものが人間持ち得る力そのものだ。
なんて思考していても仕方ないんでけどさ。
恋の思いを断ち切るか…
自分でそうしてくれた方が、100倍楽が出来るんだが。
俺でも泣いている少女に向かって、今それをするほど俺は鬼畜ではないよ。
などと思いながら、俺は冷ややかな目で、泣いている少女を見つめていた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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