248.アベル君と入学式と貴族の雑談。
248.アベル君と入学式と貴族の雑談。
「カレッド伯爵!ご無沙汰しています。10年ぶりですね。」
ヴィルヘルム・ド・カレッド伯爵。ノヴァリス国内務大臣。今は57歳だっけかな?随分と渋くなった。
10年前、セイナリアの城で聞き取りという名の尋問をしてくれた人である。
悪い人じゃないんだ。
職務に忠実で、ちょっと皮肉屋なだけだ。
そこがまた質が悪いんだが。
「10年か。君がこの街で暴れてから。」
「嫌だなぁ。そんなことなかったでしょ?」
「爆弾を空に放り投げたり、一軒屋を爆破したりしてから10年か。」
「嫌だな…言い直さなくてもいいですよ。」
「今はヴァレンティアで冒険者家業に精を出していると聞いていたが。」
「よくご存じですね。」
「それは、国内最大の危険人物の動向はチェックしておかないとね。夜も眠れないよ。」
この人はマジで言っているから質が悪い。
「ま、仰っていることは否定しませんけれどね。」
「うむ、自認することはいいことだ。セイナリアに来たのは、騎士学校に入学か。」
「そのとおりです。冒険者やっていた方が、気が楽なんですけどね。」
「剣では無敵の孫として、一閃の剣の息子として騎士学校入学は、君の責務ってところかな?」
「ご明察です。ま、ご存じのとおり、父は入学していないんですけれど。ズルいですよね。」
「その代わり冒険者として名を馳せたからな。ところでその君がなんでこんなところに座っているのだ?」
「ああ、そこに座っている金髪のエルフがいるでしょう?あれが僕の乳兄弟なんです。母の指導もあって魔法の才能が開花しましたので、こちらで勉強させようかと。」
「お転婆魔法使いの指導か。贅沢の話だ。他の地の者が望んでも出来ないのだからな。」
「その分、プレッシャーもありますけれど。それは姉が分散させてくれて、ありがたいですよ。」
「シャーロット嬢か。ここでの活躍で、教授職を打診されているとか。」
「もう、内務大臣の耳の良さは空恐ろしくなりますね。」
「それが仕事なのでね。」
カレッド伯爵はそう言うと、ちょっと顔を上げ、小さく手を振っている。
彼が手を振った方向を見ると、ブルネットの可愛い顔をした俺と同じくらいの少女がウインクをしていた。
ん?俺?
「君はうちの子に手を出すつもりか?」
「いやいやいやいや、今初めて見ましたし。さっきの利発そうな女の子がお嬢さんなんですか?」
「う、うむ。側室との子なんだが、遅くにできた子だからね。可愛くて仕方がない。魔法もそつなくこなせてね。」
「なるほど。50を過ぎてできた子ですか。お盛んなことですね。それは目に入れても痛くないでしょう。」
「ふん、15そこそこの君にはわかるまい。しかし不思議なことがこの前あってね。馬車に轢かれる酷い事故に遭ったんだが、不思議なことに一命をとりとめ、あまつさえ、病気がちで塞ぎがちだった性格も、凄く明るくなってまるで他の誰かと入違ったかのように、今、元気にそこに居る。私はあらゆる神に感謝したよ。」
うん?なんかすごく嫌な話を聞いた気がする。
俺に絡まなければいいんだが。
フラグは立てない方が良いから、ここはスルーで。
「でも良かったではないですか。僕の目から見てもお綺麗で利発そうだ。その子が事故に遭っても元気でおられる。伯爵の日頃の行いなのでしょうね。」
「むしろ私を殺した者の方が多いであろう。まあ、恨まれても仕方がない事をしなければならない仕事だからね。法を守らせるとはそういう事だ。」
「業の深いお仕事ですものね。僕も虐められましたし。」
「君は屁とも思ってなかっただろ?」
「いえいえ、隣で母さんとクリス婆ちゃんが頑張ってくれていなければ、今の僕はいません。そうでなければ今頃セイナリア城の中で、魔法を使う事も許されず、王子の従者をやらされていたでしょう。」
「あの時のお二人の舌鋒の鋭さには舌を巻いた。君のお母様はまだ甘さがあったが、クリス宰相夫人はさすがに強かったな。」
「男は普通、女性陣には普段の口論で勝てないんです。それなのに感情を排して理論武装した女性なんて凶器でしかありませんよ。」
「うむ、君は女性の本質を良く知っているな。」
「あーあ、テストです。」
いきなり拡声魔道具で職員がテストを始めた。
「うむ、そろそろかな。」
「そうですね。」
「では我々は黙ろうか。」
「承知いたしました。」
俺はカレッド伯爵に同意し、口をつぐむ。
おや、カレッド伯爵の娘が、いつの間にかアンネの隣に来ている。
何やら話をしているが、まあ、早々に友達が出来たとしたなら、それはそれでいいことだ。
「準備が整いました。これよりノヴァリス国魔法大学校入学式を取り計らいます。」
パチ、パチ、パチとまばらな拍手が起こる。
なんだか取り止めの無い感じがするが、ここは状況を見つめよう。
「それでは学校長あいさつ。」
秒で寝た。
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