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244.アベル君と家族の形。

244.アベル君と家族の形。




 「爺ちゃんが言ってくれたように考えないわけはないさ。ただね、爺ちゃんも父さんたちも貴族では珍しく、一夫一婦で過ごしてきたんだよね。だから相談しようもないし、僕自体、手探りなんだよ。」

 「でもみんな貴族として長く生きているのよ?相談くらい出来たはずだわ。」

 

 「それも重々承知。だけどさ、デリケートな問題でしょ?僕にしてみれば、舅、姑、小姑、大舅、全部の反応を気にしなければならない。そのロールモデルが今現在なんだよ。姉さん。」

 「そうか、だからいま私たちの反応を見ているわけね。」


 「まあそうなるのかな。僕もローズの席が離されていたのはビックリしたんだけれど、アーサー達が貴族の規範の中のこととして、気を利かせてくれたんだろうね。だから姉さんたちともこんな話が出来た。」

 「そうね、皆が初めてのことだわ。」


 「そうだね、使用人にも含めて皆初めてのことになるのかな?だからお二人には僕の口からお願いしたい。ローズをこの席の輪に加えて頂けないだろうか?よろしくお願いします。」

 俺はそう言ってから、席から立ち上がり、二人に礼をした。


 それを見たローズも、慌てて立ち上がり、深々と礼をした。

 「うむ、解決だの。」


 爺ちゃんはニッコリ笑い、果実酒に口をつける。

 「ローズ、こちらにお出でなさい。次期当主のお願いを聞かないわけにはいかないもの。」


 ロッティーも、さっきと違ってニコニコだ。

 ロッティーとローズは5歳から一緒。

 

 ロッティーは先生としてローズに読み書きを教え、ローズは俺のお付きではあったものの、懸命に働いた。

 ロッティーはそれを見ていた、友達として、幼馴染として、そして女性として。


 仲が良いんだ。

 俺のことを除いては。


 そして、ローズが席を移動する前に、ミーとカトリーヌらがさっさとローズの皿とカトラリーを移動してしまった。


 ミーは笑顔でローズに何か話しかけている。

 そしてローズはおずおずとロッティーの隣に来て、

 「皆様、よろしくお願いいたします。」


 そう言ってお辞儀をした。

 「うん、座りなさい。」


 俺がそう言うと、ニッコリ笑い、席に着いた。

 そして隣にいたローズと顔を見合わせ、二人の妙齢なご婦人方は、笑顔をかわすのだった。


 「で、ローズはどの部屋を使うの?」

 まだ穿り返すか、この姉は!


 「僕と一緒だって言ったろ。」

 「不潔だわ。」


 「姉さん、それ以上言うと口きかないよ。」

 「駄目よ。」


 「姉さん、僕は姉さんに性教育を受けさせたくないんだけど。」

 「いらないわ。知りたくないもの。」


 「あれほど知識欲にあふれていた姉さんが、変わったものだ。」

 「それは必要な知識と、興味ある知識だわ。不必要な知識はいらないの。」


 「そこを分かってもらえれば、僕らがなぜ一緒の部屋に居たいのかが分かるんだけどな。」

 「知りたくないもの。知りたくないの!」


 子供か!

 溺愛していた弟と、仲の良い幼馴染が一つ屋根の下でイチャコラしているのは考えたくないのは想像に難くない。


 だが、それが夫婦ってもんなんだから、承知して頂く必要はある。

 俺なんて、新生児の頃に、父さんと母さんの秘め事の雑音を散々聞かされたんだぜ?


 「姉さん、頼むから恋愛してみてくれ。そうすれば気持ちが分かるから。」

 「嫌、アベルより上の男性なんていないもの。」


 「俺を基準にするんじゃなくて、自分の気持ちに素直になればいいじゃない。」

 「私の気持ちも何も、誰も入り込む隙がないもの。」


 「でもここで自分から動かないと、ヴァレンティアの両親がいずれ動く。そうした時に、その感情を知らないままになってしまうけれどいいのかい?」

 「いいの、知らないで政略結婚をさせられた方が辛くないでしょ…」


 そう言って、俯いたロッティーの目から、涙があふれた。

 ヤバい!!言い過ぎた!!


 ロッティーが泣くのは珍しい。

 頭の良い人だから、余計なことはしない、言わない、行かない。


 だから叱られることもなかった。

 唯一、俺のことだけは例外だ。


 今回はロッティー自身が自分を追い込んでいる。

 俺が、リラ、ローズと関係を持ったことについて、思う所が有るのは知ってはいる。


 ただ、弟の立場からは、はよ嫁に行けくらいしか言えんのだ。

 それもロッティーは知っている。


 俺は飛んだ大馬鹿だ。

 「ごめん。」


 俺がポツリと呟くと、ロッティーの口から嗚咽が漏れた。

 もう、何が正解だかわからない。


 俺が良くて、ブラコンのロッティーが悪い、って話じゃないんだ。

 家族一人の気持ちも汲めない、それがいけない。


 ローズが立ち上がり、ロッティーの肩を抱き、俺に頷く。

 俺はそれに頷き返し状況を観察する。


 すると、リサもやって来て、

 「シャーロット様、行きましょう。」


 そう言って、いやいやするロッティーの両肩を抱え、食堂から出て行った。

 俺はその姿を見送りながら、思わず頭を抱えてしまった。


 「ヴァレンティアの至宝も女心は難しいと見える。」

 爺ちゃんはニヤリと笑って果実酒を口に含む。


 「爺ちゃん、この世界はまだまだ新鮮な驚きに満ちているよ。」

 「そうであろう、これから更に堪能するがいいのだ。おい、アベルにグラスと酒を。」


 「いや、酒は…うん、いただきます。」





 何十年ぶりの酒は、甘く渋く酸っぱい味がした。





読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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