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243.アベル君と別邸最初の食事。

243.アベル君と別邸最初の食事。




 俺はローズと連れ立って、以前使っていた部屋へと入る。

 「懐かしいなぁ。」


 俺が部屋の周りを見渡しながら言うと、ローズも

 「そうですね。クラリスさんと仕事をしていたのが昨日のようです。」

 

 などと、10年前を懐かしんでいた。

 楽しいこともあったけど、酷い滞在だったよ。


 とりあえず休もうかと、ソファーに座る。

 すると、ローズも隣に座った。


 まあ、抱きよせるよね。

 あとは推して知るべしだ。


 ここでノックが鳴るのがラブコメの定番。

 そんなことh…


 「コン、コン」

 ベタ過ぎる。


 「失礼します。お荷物をお持ちしました。」

 そう言って入ってきたのは俺の知らないメイドだった。


 彼女が入るまでに、俺とローズは何食わぬ顔でソファーに座っていた。

 ローズの尻尾がシュンとうなだれていたのは言うまでもない。


 メイドはクローゼットの前まで荷物を運ぶと、中を取り出そうとする。

 「あ、ちょっと待って。言っておけばよかったな。僕はこの数日後は騎士学校の寮で寝泊まりするから、そのケースにはそちらで使う荷物が入っていたんだ。ゴメンね、重かっただろうに。」


 「あ、いえ、大丈夫です。ご挨拶がまだでした。お初にお目にかかります。私、こちらでメイドを務めさせていただいております、マリーヌと申します。アベル様、奥様、これからよろしくお願いいたします。」

 マリーヌと名乗った少女は丁寧にお辞儀をした。

 

 「ああ、よろしくマリーヌ。僕が辺境伯嫡男のアベルだ。こちらがローズ。まあ、身内だな。」

 「マリーヌさん、よろしくお願いしますね。」


 俺とローズはそれぞれ挨拶をする。

 「存じております。アベル様、奥様、これから何なりとお申し付けください。よろしくお願いいたします。あ、それと、そろそろ夕食の支度が出来ております。食堂にお出で下さいませ。」


 また丁寧なお辞儀をして、マリーヌは出て行った。

 俺とローズは、顔を見合わせ、

 

 「じゃあ、着替えて食堂に行こうか。」

 「そうですね。」


 そう二人で言って、笑った。

 ってことで、早々に着替えを済ませ、食堂に行った。


 爺ちゃんは上座の右側、いつもの席に着いていた。

  ん?上座じゃないの?


 「爺ちゃん、上座じゃないの?」

 『うむ、儂は隠居した身だからな。後進に既に譲っているのだ。』


 「後進って?父さんは居ないのに。」

 「あなたよ、アベル。」


 そう言って、ロッティーが食堂に入って来た。

 「あなたは次期当主、こちらに父様はいらっしゃらないのだから、その席は必然あなたのもの。というより、この別邸自体があなたの責任で運営されるものなのよ。」


 うわ、いきなり出世かよ。

 全然考えていなかったな。


 でもここは封建社会、駄々をこねても仕方あるまい。

 謹んで拝命することにするか。


 「わかりました。」

 俺は若干神妙な顔をしながら、上座に座る。

 

 俺が座った時点で、メイド達の配膳が始まった。

 ん?ちょっと待て?


 姉さんは俺の左側の席で、その隣にローズなんだが、なぜにそんなに離して配膳するかね?

 なんてね、


 分かっていたんだ。

 そういうものなんだよ。妾ってのはさ。


 一緒の食堂に居るのもはばかられる世界だ。

 だからローズを妾にするなんて嫌だったんだ。


 まだ俺には正室が居ない。

 しかしそれを迎えたら、ローズは食堂には居られない。


 そういうものなんだよ。

 ローズはというと、そんな自分の境遇を享受しているのか、黙々と料理を平らげている。


 こういう時は、腹をくくった女の方が強いんだよな。

 男は女々しくていけない。


 もっとも女々しいって言葉は男にしか当てはまらないからな。

 女々しい女は居ないのだ。


 俺も腹を括ろう。

 せっかくのアーサーの飯がまずくなる。


 「ところで、ローズはどこの部屋に入るの?」

 唐突にロッティーが言ってきた。


 「俺の部屋だけど?」

 「駄目よ。」


 「なぜ?」

 「不潔だわ。」


 「姉さん、20歳にもなったのに、不潔も何もないでしょ。察しなさいよ。」

 「こういうことに歳は関係ないでしょ!」

 「あるよ、姉さんこのままだと行き遅れだよ。言いたくはないけれどね。」


 「私は結婚なんてしなくてもいいもの。」

 「そう?僕は姉さん似の姪か甥が見たいなぁ。」


 「いいの!講師の仕事が楽しいし。」

 「自分の家族を持つのも楽しいと思うよ。」


 「もう!自分が先にローズを娶ったからって上から見て!!」

 「上からは見ていないさ。僕は単純に姉さんのことが気がかりなだけだ。」


 「アベルだってローズをそんな席で食べさせて平気なの!」

 なぜそっちに話が向かう?面倒くさい。


 「平気じゃないさ。」

 「じゃ、なぜ黙っているのよ。」


 「そういうものだと思っているからだよ。」

 「妾は虐げられるものって思っているの?」


 「そんなことは思っていないと言ったら嘘になる。でもそこは十分承知している。だから今までローズを娶らなかったし、娶ったからには腹を括った。それだけのことさ。」

 「煮え切らないわ。私の知っているアベルはもっと理論的に最短で結論を出していたもの。今のあなたはうじうじしている。」


 「まったくもってそのとおりだよ。背負うものが出来ると慎重になる。今更ながら、父さんたちの気持ちが分かるのさ。」

 「ならばいいわ!ローズ、私の隣に座りなさい。」


 「いえ、でも…」

 ローズはそう言って、俺をちらりと見た。


 「アベルの判断は仰がなくていいわ。貴族の規範の外に出れなくなった男など、見なくても良いわよ。」

 うわ!辛辣!!


 ロッティーがここまで強い言葉を使うとは思わなかった。

 でもここの議論でがっかりしたのは確かかもしれないな。

 

 「シャーロット、そこまでだ。」

 「お爺様!」


 爺ちゃんはカトラリーを置き、姉さんに目を向けている。

 「おぬしらは頭が良い。儂は武術しかやってこなかったでな、おぬしらの議論を聞いていると目が回る。しかし、次期当主にその口はいかん。アベルだってわかっているのだ。その貴族の規範の中で、どうやればローズを幸せにできるかくらい考えているに決まっているであろ?」





うわー、俺ってば期待されてんなぁ。


読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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