242.アベル君と再会。
242.アベル君と再会。
ゲートは難なくパスし、にぎやかな商業街を見ながら、住宅街に向かって馬車は走って行く。
10年ひと昔と言うけれど、ずいぶん久しぶりだ。
高台に近付き、ヴァレンタイン家の別邸が見えてきた。
「久しぶりですね。」
ローズは俺の手を握りながら、窓を覗き込む。
「新婚旅行のようですにぇ。」
ミーがこちらを見て、ニヤ付きながら言ってきた。
「ミーたちも同じようなモノだろ?」
「はっ!そう言えばそうでした!フレイとデートに行かにゃきゃ!」
途端にミーはソワソワする。
その横でアンネローゼはボーっとしている。
何かあったのかな?
あったのなら、その思いを是非魔法の勉強にぶつけてほしい。
その間にも馬車は別邸の敷地に入り、ロータリーを回り玄関の前に停車した。
そこには、知った顔と知らない顔が数人、並んでいた。
その中で、なんと言っても列の中央で微笑んでいる我が姉ロッティーが何とも美しくなった。
顔の像策は母さんというより、父さんの系統が良く出て来ていると思う。
馬車の前に爺ちゃんが馬を止め、颯爽と馬から降りた。
一斉に出迎えた使用人たちがお辞儀をする。
「お爺様、お久しゅうございます。」
そう言って、ロッティーは可憐なカーテシーで爺ちゃんを出迎えた。
それからハグをしようと近づいてきたロッティーを爺ちゃんは手で制し、
「ずっと騎乗して参ったのでな、今抱きついてはその綺麗なドレスが汚れてしまうであろう?」
と言って、止められたことに驚いたロッティーを諭した。
「いやだ、お爺様。部屋着ですから気にする必要ありません。」
そう言ってロッティーは爺ちゃんにハグをした。
我が姉も、お歳を経てやや強引になられたかな?
などと思いながら、俺は馬車から降りて、ローズの手を取り、降りるのを手伝った。
そして俺が振り返った途端に、ガバッ!ときた。
「ああ、アベル、アベル。久しぶりね。すっかり私より背も高くなって。胸板なんて逞しくおなりだわ。」
と言いながら、俺のことをスピスピ臭いをかぐ我が姉。
ここら辺のブラコンというのか、変態性というのか、さらに悪化していないか?
俺は、ロッティーの背中に手を回し、ポンポンと背中を叩いて
「ご無沙汰しております。姉さん。でもみんなが見ていますので、いい加減になさった方がよろしいかと思いますよ。」
「あら、8年ぶりに愛しい弟に会って、家族の愛情を示しているのに、それが悪いことなんてことはないわ。むしろ良いことよ。」
やっぱり、ずうずうしくなってる。
その後ろから、ローズの声が聞こえた。
「シャーロット様、ご無沙汰しております。」
俺からは見えないが、かなりかしこまった声だ。
「ローズ!聞いたわよ!我が弟を手籠めにしたと!」
俺を抱いたまま、ロッティーの舌鋒鋭く響く。
「いや、いや、いや、いや、何言ってんの?勘弁してよ。僕がローズと一緒に居ようって言ったの。分かる!?」
「アベルは優しいから、昔から一緒だったローズを庇うのはわかるわ。でも、ローズ!アベルは渡さない。」
もう何が何やら。
「姉さん、俺は姉さんのモノになった覚えはないよ。」
「まあ、久しぶりに会ったから、アベルは恥ずかしくて気が引けているのね。そういうところも可愛いわ。」
さあ、困ったぞ。ここまでのモンスターにチェンジしているとは想定外だった。
などと考えていると
「はっはっはっはっ!さすがのアベルもシャーロットには敵わんか。シャーロットそろそろアベルを放してやるがいい。使用人たちも待っておるでな。」
爺ちゃんはそう言ってロッティーを諭した。
「それはそうですね。これから時間は幾らでもあるもの。さあ、アベル皆にご挨拶をなさい。」
そう言うと、ロッティーの腕の力が弱まった。
「やあ、アーサー久しぶりだね。息災の様で何よりだ。」
「坊っちゃんこそ、お元気そうで何よりです。」
「うん、アーサーありがとう。」
俺はアーサーににこやかな顔で答えた。
そしてもう一人に顔を向ける。
そこには多少皆より背が低い、ドワーフの女性が控えていた。
「リサ、久しぶり、元気だったかい?」
「はい、アベル様。お久しゅうございます。」
リサはヴァレンティア城に居た時のように、朴訥な話し方で返してきた。
「うん、いつも姉さんに付いてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ。」
「はい。アベル様、ところでローズを娶ったとお聞きしましたが。」
「うん、まあ、そうなった。あとでローズと話をするといい。」
「はい、ありがとうございます。」
「うん、ところでアーサー、メイドの顔ぶれが全員変わったね。」
「はい、10年前から居たメイド達は、皆嫁に行きましたので。でもカトリーヌはこちらでの仕事を続けてくれておいります。」
「なるほどな、10年の月日はやはり長いものだ…」
俺は、アーサーの答えを聞いてつぶやき感慨に耽った。
「アベル、そろそろ入って一休みしよう。」
「ああ、そうだね、爺ちゃん。みんな入ろうか。」
俺がそう言うと、他の同行者も別宅に入って行った。