240.アベル君とローズの処遇。
第五章.
240.アベル君とローズの処遇。
「そうか。リラをな。」
父さんは手短に答えた。
ここは父さんの書斎。
今は二人きりだ。
「で、どうするんだ?」
「うん、決めかねているけど、本人がどうしてもというなら連れて行くしかないかなって思っている。」
「でも、お前に付いて行って帰ってくる頃には、ローズはもう23歳にはなっている。行き遅れだぞ?」
「それが一番頭の痛いところだよね。」
俺はそう言って天を仰いだ。
「僕にとってローズはメイドであり、友達であり、姉であり、パーティーメンバーだからね。無碍には出来ない。かといって、妾なんて一人で良いと思っているんだよ。リラはローズを迎え入れてくれると思っているけれど、正室となる人間がそうとは限らないでしょ?」
「そのとおりだな。モテるのも考え物だ。」
そう言って父さんはニヤリと笑う。
「父さんだって、僕くらいの頃はとっかえひっかえだったっていうじゃない。」
「若いころはそういう事もあったさ。でもアリアンナと出会ってからはそういう事も無くなった。一生の女と会うというのは、そういう事だぞ?」
「僕にはそういう自由恋愛は与えられていないようですけどね。」
「その代わり妾は許容されているだろう?」
「でもそれは血族を残すという部分もあるじゃない。」
「そのとおりだね。僕の場合はアベルという優れた血が残ってくれて、胸をなでおろすばかりさ。」
クックックッと父さんは楽しそうに笑った。
こっちは笑えないんだけどね。
「父さん、笑っている場合じゃないんだけど。」
「僕は笑ってられるんだよ。問題なのは、アベルの気持ちだけなんだから。」
むー、まさにそのとおりで、俺が腹を決めればなんてことはないんだよな。
でもその結果がローズの一生を決める。
非常に重いものだ。
できればもっと広い視野でローズに決めてもらいたいんだよ。
俺だけに固執するんじゃなくてさ。
何か、意固地になっているように感じるんだ。
「それがローズの一生を決める…」
俺がそう呟くと
「そうだ、でも一緒になるとはそういう事だろ?」
父さんは俺に対し、静かに問いかけた。
「人の一生を抱えるのは重いよ。」
俺はとうとう弱音を吐いてしまった。
「お前だけが背負うんじゃない。お互いが背負うんだ。そこまで重いものではないさ。本当は。」
なに?最後の本当はって?
「なに?最後のは?」
「あー、うん、相手が居るって事さ。自分だけそう思ってもねってこと。」
父さんは苦笑いをしながら答えた。
「結局は、相手に過度な期待をしちゃいけないって事なのかな?」
俺がそう問うと
「そうだね、信頼はしなきゃだめだけど、期待は高くしない方が良いって事かもね。」
「よし決めた。」
俺は宣言する。
「ここで決めちゃっていいのかい?」
父さんはやや心配そうだ。
「うん、もうずいぶんと前から悩んでいたんだもん。もう蹴りくらい付けないといけない時間だよ。」
「そっか、で、どうする?」
「ローズを連れてくよ。」
言った途端に胸の中の重りが軽くなった気がした。
「うん、わかった。アリアンナとヨハン、マーガレットにも知らさないとな。」
「職場の責任者たちだからね。」
「そのとおり、あと、ローズの両親にも挨拶に行くんだぞ。」
ご両親へのご挨拶ですか。
長く生きているけど、はじめての経験だ。
「わかった。じゃ、父さん忙しいのに話を聞いてくれてありがとう。」
「息子の一生の事だろ?それは僕の人生の一部なんだよ。アベルだけの事じゃないのさ。」
「そっか、でもありがとう。失礼します。」
「うん。」
父さんは笑顔でうなずき、俺は書斎から出た。
俺が自分の部屋に戻ると、ローズがベッドメイキングをしていた。
「ローズ、ご苦労様。」
「いえ。」
ローズは手短に答えて、作業を終える。
お辞儀をして部屋から出ようとするローズに俺は声を掛けた。
「ちょっと待って、話があるんだ。」
「はい。」
最近のローズは俺との会話をしようとしない。
精神的に参っていたのだろう。
俺は俺だけ悩んでいるように思っていたのだ。
それはお互い様だった。
本当に可愛そうなことをしていたんだな。
「ローズ。一緒にセイナリアに行こう。これからも僕のことを頼むよ。」
うつむき加減だったローズの顔が真っすぐ俺を見据える。
そして、クシャリと顔がゆがむ。
俺はおいでと手を広げた。
ローズは迷わず俺の胸に飛び込んできて、そしてしゃくり上げ始めた。
もう俺の方が背は高いからね。
ローズくらい完璧に受け止められるさ。
「待たせたね。ずっと一緒に居よう。」
ローズは無言で何度もうなずき、とうとう嗚咽を洩らしはじめた。
俺はローズを抱きしめながら、頭をポンポンと軽く叩く。
しばらくして顔を上げ、見つめ合う二人。
そして
「ローズ終わった?」
ノックもなしにエレナが入ってきた。
エレナが俺たちを見た瞬間3人の時間が止まる。
「あ、お構いなく。続きをどうぞ。」
そう言ってそそくさと部屋のドアを閉め、エレナは出て行った。
ラブコメかよ!!
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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作者がんばれ!
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