233.アベル君と鵺の鳴く夜は。
233.アベル君と鵺の鳴く夜は。
空中に浮く鵺と俺は対峙していた。
「ちと待て、のどが渇いたわ。水飲むからね。」
俺はそう言って以前のように水を顔の前に生成する。
そして目の前の水を吸い込んだ。
余った水が空中に浮いている。
その水が細く長く鵺に伸びて行く。
常に水を生成し、魔力固定を細いストローのようにして、その中央を水に圧力をかけ細く、細く。
鵺は、たかが水が伸びてくるのは気にしないらしい。
俺は、ニホンザルの額に狙いを付けて、水を伸ばす。
そのニホンザルは、馬鹿にしたように笑っていた。
「その水が何の役に立つ?」
そう言いたげだ。
まあ、そう焦らないで、一回その額に先っちょだけでも当ててみなよ。
俺も、不敵な笑顔が浮かんでいたに違いない。
あと1mを切ったところで、水のスピードをグンと速めた。
とんでもない圧力を持った水が、とんでもないスピードで鵺の頭を貫いた。
「な、額に穴が開いたろ?」
それで終わりだった。
空中から鵺が落ちてきて動きを止めた。
最後までしっぽの蛇はうごめいていたけどね。
「妖術使いに物理で勝つとか、あんたも変態よね。」
リーサが肩に現れて、大変失礼なことを言う。
「一度、ローズにケ〇ファーのように水を掛けてあげたことがあったけど、あれのものすご強い版の、ウォータジェットの魔法版な。水に掛ける圧力と、スピードが必要だから、魔力固定をストロー状にして、そこに水を通す。先はもちろん塞いでおいて、常に水は生成し圧力を掛ける。で、敵が近くなった時点で、塞いだ蓋を消去し、細く、速く、圧力のかけた水を相手にぶつけた。それだけだな。だけど、物理応用と言っても魔法だから、今まで使わなかった。」
俺は今の魔法の説明をする。
神に説教なんだがな。
「でも今回は使ったじゃない。」
「うん、疲れていたから。」
「呆れた。」
「それに、こいつと戦ったところで、大した修行にならないと思ったんだ。」
「確かに、この手の魔物はイレギュラーみたいなものよね。」
「そう、やはり剣術は、対人戦専用みたいなところがあると思うんだよ。だから、クリーチャー的な相手には、結局不利になってしまう。パーティーで戦う前提なんだよな。」
「そうかもしれないわね。でもローランドは一人で済ましちゃうんじゃない?」
「うちの父と祖父はその点人間離れしていますので、はい。」
「あんたがそう言うんだもの、あの二人も大概よね。」
「剣術だけで言えば、人外だよ。」
「それ目指しての修行なんでしょ。」
「良くお分かりで。」
「分からいでか。まあ、クリーチャー相手なら、タンクがいて前衛がいて、後衛が遠距離攻撃で隙を作る。これが必須になるわよね。」
「そう、これ自体がもう大前提。だから、その前提が無い今回は、ここから先、魔法全開放で行く。出し惜しみはなしだ。」
「ふーん。まあ、いいんじゃない。」
リーサは興味なさげに返事をした。
まあ、戦い自体にはそんな興味がないような返事、ま、そんなものなんだろう。
「とりあえず魔石採るわ。」
俺はそう言ってみのさんと鵺の魔石採取に向かう。
さて、みのさんの魔石はどこにあんのかな?
「よっと。」
掛け声をかけて、俺はうつ伏せのみのさんをひっくり返して仰向けに寝せる。
重いけどね、まだマッスルブースト掛けたままだから可能だ。
大胸筋の間にナイフを入れる。
今まで硬かったのが嘘のようにナイフが刺さり、そのまま腹筋の間までナイフを下ろしていく。
腹筋で収まっていた圧力が解放され、中身の腹圧で内臓があふれ出す。
みのさん牛だから、食えんのかな?
この腸を洗浄して、食ってんのか?
人間の食欲って、果てしないな。
美味いけど。
さて、馬鹿言ってないで魔石、魔石っと。
とりあえず俺は内臓の飛び出した腹の中に手を突っ込んでまさぐると、ゴツっとした物が手に当たった。
「おっ!これか。」
思わず声が出た。
俺はそれを鷲掴みにして、余計な内臓をもう一方の片手で避けた。
手に力を入れて引き出すと、それは見事な大きさの魔石だった。
なかなか、いいじゃん。
俺はその大きさを眺めながら、悦に入る。
しかしさ、この図体だ、おまけはないか?
俺は更に腹の中をまさぐる。
んー、ないか。
でもね、みのさんの厚い胸板の中に何かあんじゃね?
俺はナイフで切り開いた大胸筋の間に手を入れて、一気に開いた。
そこには肋骨に守られた臓器たちが収まっている。
俺は邪魔な臓器を取り除きながら、胸の中をまさぐった。
こ、これは!
何もなかった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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