231.アベル君と弱き者たち、強き者たち。
231.アベル君と弱き者たち、強き者たち。
いけね、水くらい飲んどくんだった。
そんな俺の思いも知らず、ゴブリンたちはにじり寄ってくる。
この小鬼たちは、基本団体行動だ。
個体だけだと弱いからだろう。
今回の向こうのパーティーも前衛3、後衛2のバランスの取れたパーティーだ。
前衛は皆何かしらの剣や槍を持ち、後衛は弓を持っていた。
その後衛が弓を俺に掛ける。
「ひゅん!」
その矢の一本が俺に向かってとんできた。
俺は動体視力だけで、それを避ける。
ところがだ、もう一匹がディレイで俺が避けたところに矢を飛ばしてきた。
何?こいつら!オーガと言いゴブリンと言いちょっとレベルが上がってんじゃないの?
その矢も躱していると、俺の腹に鈍い光が走ってくる。
前衛の剣だ!
「キン!」
俺は自分の剣で腹に向かってきた剣を跳ね上げた、その相手に剣を振り下ろす。
「ギン!」
すると、腹を狙ったゴブリンの間に他のゴブリンの剣が割って入り、俺の剣を防いでいた。
「やるなぁ。」
俺は思わず声が出た。
そして俺は一回飛び退いた。
しばし剣を構えて観察。
ちゃんとしたパーティーだ。
俺がまるで強大なモンスターになった気分にさせられる。
そうか、彼らの住処を犯すモンスター、まさに俺たちはそれだったな。
ではすまんが、オーガの気分になって暴れさせてもらおうか。
その前に、俺が顔の前にゴルフボール大の水を生成、それを一口で飲み込み、のどを潤した。
一瞬ゴブリンたちは、魔法が飛んでくるのかと身構えたが、俺が水を飲んだだけだと知ると、狂暴な殺気を向けてくる。
そうだ、お前らの立場は、本来それだろ。
ダンジョンに入って来た奴らを襲い蹂躙する。
弱いパーティーの真似なんてしてんじゃねーよ。
俺の腕が横に振れる。
黒い影が、後衛で弓を構えていたゴブリンに目を貫いた。
暗器だ。
ローズがヨハンに付いて修練しているときに、俺も混ぜてもらったんだ。
これが出来ると出来ないじゃ、攻撃の幅が違うからね。
ローズは自分の活躍の場がなくなると思ってか、膨れていたけど。
仕方のない奴だ。
ゴブリンたちは、のけぞった後衛一人に目が集中した。
その隙に俺は距離を詰める。
俺に前衛のゴブリンの一人が気が付いた時、すでにそいつの首にはミスリルの剣が滑り込んでいた。
軽やかにゴブリンの首が飛んでゆくが、そんなことは気にしていられない。
俺の斜め前に居た後衛のゴブリンに袈裟斬りで斬りつける。
肋骨を断ち切りながら、ミスリルの剣が内臓をも破壊して行く。
「あと2!」
俺は気合を入れて向き直った前衛ゴブリン2匹に呟いた。
その2匹は並んで剣をこちらに向ける。
しかしその表情に先程の殺気が無い。
そんなの俺はお構いなしだ。
足を踏み込む、さらに踏み込む、スピードを乗せて、一匹のゴブリンに面を叩きこんだ。
さすがミスリルでも固い頭蓋骨は斬れない、が、叩き割ることは出来た。
頭を割られたゴブリンは、脳漿をまき散らしながら地面に倒れこんだ。
「あと1!」
俺はそう言ってから
「ヒュゥ。」
と、息を整えた。
それに呼応するがごとく、ゴブリンが剣を前に構え、必死な顔で俺に突っ込んでくる。
俺にはその姿がよく見えていた
俺は受ける振りをしてスッと横に避けた。
もうゴブリンは止まれない。
俺の横を、剣を突き出したまま通り過ぎたゴブリンは一瞬こちらを向いた。
俺はその首をミスリルの剣で跳ね飛ばす。
引きつった顔のままゴブリンの頭が飛んだ。
「だるっ!」
俺はそう言ってゴブリンの顔を忘れようと努め、剣を鞘にしまう。
そしてベルトからナイフを取り出した。
「ちゃんと魔石は取り出すのね。」
いつの間にか肩に止まっていたリーサが、俺の耳元でつぶやく。
「領地の貴重な産業だからね。無駄には出来ないさ。」
「ヒューマンたちが群れて暮らす営みは、いまだに良く分からないわ。」
「俺はボッチでも平気なお前たちの方が分からんね。」
「あら、前世ではボッチだったじゃない。」
「そうだよ。だからこそ今はわからないのさ。」
「ぬるくなったものね。」
「愛されていると言ってほしいね。」
「はいはい。」
リーサの呆れた声が、ダンジョンに響いた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。