229.アベル君と大鬼。
229.アベル君と大鬼。
剣を抜いた俺は右肩に目をやった。
すでにリーサの姿は消えていた。
ちゃんと自分の立ち位置を分かっていらっしゃる神様に敬礼。
さて、俺は俺で、目の前の障害を排除しますか。
この時点で既にブレインブーストとマッスルブーストは解いている。
出来るだけこの手の魔法やスキルっぽいものは使わないようにしないと修行にならないから。
自分の肌感覚で対処をしていく。
そして、その相手が目の前のオーガ。
角の生えた大鬼だ。
身長は250cm程度。
体重はどれくらいなんだろうね、150は超えているんじゃない?
とにかく筋肉がね、もりもりですよ。
このオーガが中級ダンジョンの中盤以降で出た時は苦労した。
ローズの攻撃が全然効かなくてね。
結局、俺とフレイでなんとか片づけた。
ローズの奴、落ち込んでいたっけ。
で、そのオーガさんが目の前に3体。
団体さんのお着きだぁ。
オーガは武器としてこん棒を持っている。
それを振り回して攻撃してくるんだが、それがシャレにならない威力を持つ。
オーガのウェイト、膂力、それらを一心不乱にぶつけてくる。
それを避けつつ、弱点を突く。
それしかない。
その弱点なんですがね、半神アキレウスの弱点でもあったアキレス腱。
まあ、そこは誰にとっても弱点なんですけどね。
あとは首、脇といった、人間でも弱点とされるところばかり。
でも、残念ながら、金的はない。
などと考えていると
「ぶうぅん!!」
てな、音が聞こえ、こん棒が俺の頭に降ってくる。
「うわっ!」
俺は自慢の動体視力と筋力でそのこん棒から後方へ飛び避けた。
ローランドとアリアンナ。
普通の人間としても常軌を逸している二人の遺伝子を組み込まれたアベルの身体は、マスターピースそのものだ。
高次元のYouちゃんも言ってたっけなぁ。
でももう、ちゃんと戦闘モードに入りなさいよってね。
そう自分に突っ込みを入れながら、剣を身構える。
そしてオーガが振り上げたもう一撃を、その横に避けた。
で、実は一番のオーガの弱点は、この大振りだ。
一回振り回してはそのデカい身体を屈めてさらす。
弱点を狙ってくださいとばかりにね。
だから、こん棒を的確に避けることが出来るなら、実は強い相手ではないんだ。
だけどさぁ、今回は3体もいらっしゃるんだもんなぁ。
そう、俺の避けた位置に、次のこん棒が飛んでくるのだ。
俺は次弾を避け、つい声が出る。
「きっつ!」
俺はそう言いながら、順番に飛んでくるこん棒を丁寧に避けた。
そして二巡目。
一本目のこん棒を避け、二本目のこん棒を避けたと同時に、三体目のオーガに俺は向かって走った。
すでに三体目のオーガはこん棒を振り上げている。
そのがら空きの脇に俺はミスリルの剣を突き刺した。
脇から肩の腱を切断したと思う。
三体目のオーガは振り上げたこん棒を維持できずに、地面に落とし脇を押さえた。
「ぐわぁぁあ!!」
俺に向かって怨嗟の咆哮をするオーガ。
そんな怒んなよ。
3対1のハンデ戦じゃないか。
俺には膝を崩して吠えているオーガの足の腱が良く見えていた。
だからさ、わざわざ弱点さらすなよ。
音もなく走ったミスリルの剣は、オーガの右足のアキレス腱も切り裂く。
「うぎゃう!!」
これは明らかに悲鳴だ。
片腕と片足を失ったオーガは、跪いたまま頭を垂れた。
「んじゃ、遠慮なく!」
俺が剣を振り上げたその時、
「ぶうぅわぁ!」
横殴りにこん棒がやってきた。
「ん!!!」
俺は剣でそのこん棒をガードしたが、その態勢のままダンジョンの横壁まで吹っ飛ばされ、したたか頭と体を打ち付けた。
一瞬のブラックアウトに続き、目を開けると星が飛んでいた。
アニメのエフェクトでもあるけど、本当にチカチカ光るんだ。
軽く頭を振る。
でも脳震盪の時は安静にしなさいね。
ちょっとは周りが見えるようになった。
ちょうどその時、目の前に黒い影が出来た。
俺は壁を転がるように移動した。
「どがぁあん!!」
今まで居た場所にこん棒が打ち付けられる。
地面を打ち付け、動かないでいるオーガの顔がすぐそこにある。
これはラッキー。
慌ててこん棒を振り上げようとするオーガの首に、俺は剣を突き立てた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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