228.アベル君と大穴。
228.アベル君と大穴。
俺は深紅の大穴に入る、ゲートの列に立っている。
ゲートと言っても、電車の改札のようなゲートがずらっと並んで、冒険者を待ち構えている。
そのゲートの横には、チェックを行う騎士と、ギルドの職員がいた。
俺は背嚢一つ、身一つでそのゲートに並ぶ。
パーティーのメンバーはいない。
「私は居るでしょ!」
そう言って俺の肩を蹴飛ばしたのは、フェアリーの身体をした神、リーサだ。
もうトレーサって名前も忘れそうだね。
聖王国も忘れてんじゃね?
「そうであって欲しいわね。」
冗談はともかく、朝食を食べて、革鎧と鎖帷子を装着し、色々入れた背嚢を背負い、ミスリルの剣を腰ベルトに吊るして、黙って城を出た。
ローズは分かっていたかもな。
鼻良いし。
とにかく、警備の騎士に
「お出かけですか?」
と聞かれたが
「ちょっとそこまで」
と返して、城のゲートも突破した。
日ごろから良い子だと、皆も信用してくれるのだ。
大穴までは、城から馬車で3時間程度かかる。
徒歩だとどれくらいになるんだろうね?
そんなのんびりはしていられない。
俺は、マッスルブーストを使って走り続けた。
マッスルブーストは、速筋だけではなく遅筋にも作用する。
しかも、グリコーゲンを最適化するので、疲れ知らずだ。
もちろん、酸素を生成しながらだから、呼吸も一定だ。
もうチートじゃないとか、言わないから勘弁してくれ。
そして、大穴について、冒険者の列に並んでいたら、肩に羽虫が止まっていたんだ。
「羽虫じゃないでしょ!!あんたを一人きりで入れさせられるわけないじゃない。」
さようで。
「そうよ!」
さて、そんなことをやっていたら、ゲートの前までやってきた。
「アベル様!?」
チェックの騎士が、俺を見て素っ頓狂な大声を上げる。
周りの冒険者が俺の方を一斉に見た。
「お役目ご苦労様。入れさせてもらいたいんだけど。」
俺はそう言って、騎士に冒険者ギルドのタグを見せる。
リーサも自分のタグを提示していた。
「ご領主様達は御存じなんですか?」
「もう父さんたちに了承を得ないと物事が出来ない歳じゃないしね。そんなんじゃデートも出来ないよ。」
俺は騎士に苦笑いを見せながら言った。
「アベル様もそのようなお歳ですか。はじめてならば十分気をつけてください。他のメンバーもいらっしゃらないようですし。」
「うん、今日は僕だけで下見さ。みんなを引き連れて入る前のね。」
「なるほど、そういう事なんですね。では入ってください。」
騎士は俺の前のゲートを開けて招き入れた。
「すぐに帰るよ。ベヒーモスに挨拶してからね。」
俺は片手を上げて騎士の前から消えた。
マッスルブーストとブレインブーストを掛け、とんでもないスピードで冒険者の間をすり抜けて奥まで進んだ。
いままでのダンジョンで出てきた魔物たちに遭遇したが、とりあえず無視。
あちこちで戦っている冒険者たちも、そつなく戦っている。
回ダンジョンで同じ魔物が出るんだが、深紅の大穴の魔物から出る魔石は魔素の含有量が高いとかで、高値で取引されている。
それもあって、大穴に入れるD級より上の冒険者が主な狩場にしているのが、深紅の大穴の入口付近だ。
サクって狩って、サクって帰る。
そうやって日々の糧を稼いでいる。
そしてたまの冒険。
大穴の奥に足を踏み入れ、ドロップの一獲千金を狙う。
そうそううまくはいかないみたいだけどね。
うまくいく連中ばかりなら、大穴成金で、街が溢れているだろう。
大猫や、カマキリはここでは雑魚です。
本当にありがとうございました。
もうね、みんな擬音のとおり、サクサク狩っていく。
苦労したのが馬鹿みたいだ。
と言っても、俺らも今では割とサクサク狩れるようにはなってきてる。
ベテランたちと同じにはなれないけどね。
そんな冒険者たちを横目に、俺は前に進んでいく。
まだ序盤の奥程度。
結構な速さで進んでいた俺の前を塞ぐ大きな影が現れた。
「オーガか。」
俺は一言呟いて、剣を抜いた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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作者がんばれ!
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