219.アベル君とアンネの魔法。
219.アベル君とアンネの魔法。
「よし!行くぞ!」
俺はそう言って自分を鼓舞し、ローズのもとに走った。
フレイのもとへはネズミ共が殺到していた。
通路が広いのも状況を悪くする。
しかし、攻撃しようとするネズミをフレイは丁寧に捌き、ローズはカウンター気味に攻撃していた。
なんだ、焦る必要もなかったか、と思いながら、俺は手近で、しかもフレイに襲い掛かろうとしていたネズミに切りかかった。
狙うは首。
俺は振りかぶった剣をそのままネズミの首に切りつけた。
刃がすんなりネズミの首の中へ入って行く。
もちろん肉を切る、嫌な感覚はあるんだが、10歳の筋力でも、ステーキを切るより軽い力でミスリルの刃は進んで行った。
しかしだ、首の骨らしきところで刃が止まる。
俺の修練不足がここで露になってしまった。
「情けない。」
一言言ってから、俺は力を込め、頚椎の隙間を刃で探し、そこを断ち切った。
「ひとつ。」
自然と声が出た。
次はその奥から俺を襲おうとした個体。
狙いすまして、眼窩に刃を突き入れた。
「ゴツッ!」
やや硬い衝撃が俺の腕を襲うがそのまま剣を差し込む。
そして、剣が頭蓋骨に阻まれ止まり、ネズミは痙攣しながら息絶えた。
俺は振り返り、ローズたちを見る。
盾を嫌い、ローズに躍りかかったネズミの腹を、フレイの剣が屠っていた。
フレイたちが3匹。俺が2匹。
戦闘は終了した。
残心を終え、俺はアンネたちに声を掛けた。
「アンネ!終わったよ!おいで。」
そう言うと、アンネはリーサを肩に乗せ、トコトコ駆け寄ってくる。
同い年の男なら、そりゃ惚れるだろと言う可愛さだ。
あ!俺同い年だった。
てへっ。
「アベル様、生臭いですね。」
アンネが駆け寄って来ての開口一番がこれである。
「殺したばかりだからね。これからもっと酷い惨状を見せてやろう。ヒッヒッヒ。」
「アベル様!」
と、ローズににらまれる。
ちょっとこの場の凄惨さを和らげようと思っただけなのに。
分かってないなぁ。
「よし、とりあえず手分けして魔石を取ろう。アンネも一匹やってくれ。」
俺がそう言うと、「!!」的な顔をしたが、すぐ気を引き締め、自分の背嚢からナイフと手袋を取り出した。
そして俺を含む四人は、手際よく魔石を取り、俺の魔法と魔道具で手袋と魔石をすすいだ。
「ドロップはなかったか。」
俺がそう言うと
「なかなかないのがドロップですからね。」
フレイが、さもありなんと返す。
俺はそんなフレイに笑顔で答え
「よし、先に向かおうか。」
と皆に声を掛けた。
そしたら、後ろから足音が聞こえ
「よぉ!」
と聞き覚えのある、なまった呼び声が聞こえた。
ダンジョンの入り口で会った、田舎者4人組だ。
またローズが俺を庇おうと前に出ようとするが、それをまた手で押さえる。
隠れていたんじゃ、交渉になんないんだよ。
「何か用かい?」
「領主の坊っちゃんよぉ、装備と女くれよぅ。いくらでもあつらえられんだろう、ほら、良い剣持ってんじゃねぇか。女もよぉ、もう一人はガキだが、穴がありゃいいよう、俺は好き嫌いしねぇから。なぁ、おいてけよぉ。」
なかなかの下種である。
今まで自分の思い通りに力でねじ伏せてきたのだろう。
今回は今の言葉で、一番怒っている者に任せるか。
「アンネ、良し。」
俺がそう言うと、アンネはそいつらに向かって両手を向ける。
俺には見える、アンネの魔力操作が、そいつら下卑た4人の顔に向かっていることが。
「なんでぇ。」
そう言って訝しむ田舎者たちに、アンネの手元が光ったと思ったら、ファイアーボールが連続して発射された。
アンネもね、魔素タンク所有者なので、ファイアーボールごときで、魔素の節約なんてしなくていいのよ。
って、俺が教えた。
そのファイアーボールが、ガンガン田舎者たちに当たり、皮脂の焦げる臭いや、毛の燃える臭いをばら撒いた。
「あちぃ、あちぃ、魔法使いかよ!汚ねぇ!汚ねぇぞ!遠くからよう!」
そう言いながら、連中は来た道を逃げて行った。
「アンネ、お疲れさん。」
俺はそう言ってアンネの頭を撫でた。
するとアンネは俺に飛びつき、嗚咽をこぼし始める。
何故かはわかる。
自分を慰み者にしようとしたものが現れた。
それが怖い、悔しい。
それをやっつけた。
でも自分が初めて人を傷つけた。
いろんな感情が入り混じっているに違いない。
俺は優しく抱き留め、頭をポンポンと軽く叩くのだった。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。