217.アベル君とスタンピード。
217.アベル君とスタンピード。
チェックされている冒険者を横目に、俺たちはダンジョンの入り口に通された。
ゴメンな、特権階級でさ。
恨めし気に見つめる、低ランクの冒険者の冷たい視線を感じながら、俺たちはダンジョン内部に足を進めた。
「さて、ここはどんなのが出るか、予習をしてきました。」
俺は父さんが書いた「ダンジョン魔物雑記」を掲げた。
周りの皆はうんうん、と頷き俺を凝視する。
「ここは、最初に大ネズミ。というかほぼ大ネズミで、ヤマネコの様な猛獣がまれに出るらしい。中間ボスはなく、最後の玄室に大蛇だってさ。」
「ローズ、敵が大ネズミってとこのに、何か気付いたことがある?」
俺はローズに教師よろしく質問してみる。
「はい。鼠だから、すばしっこいとかですか?」
「なかなかいい目の付け所だ。悪くないよ。」
などと、ローズの自己肯定感を煽ってみる。
すると、ローズの頬はすぐに紅潮した。
分かりやすい奴め。
「はい!」
「おっ!アンネ、何か分かったかい?」
「こういう時のアベル様はちょっと意地悪だから、きっと私たちに嫌な事です。」
読まれていたか。
「例えば何?」
俺は腹の内を出さないように、アンネに質問をする。
「それは、ちょっと分かんないけれど…」
アンネもまだまだおこちゃまだ。
10歳だから当たり前だけど、さて。
「フレイは分かるかい?」
「ネズミの体内に魔石があるってことですよね。」
「そのとおり、ネズミの血肉をかき分け魔石を取り出さなければならない。」
その会話を聞いて、女性陣の顔色が変わる。
「なに、虫の体液が、血肉に変わっただけだ。」
「変わっただけじゃないですよ!」
「ローズはそう言って俺に非難の声を上げるが、
「とはいってもだ、それをやらんことには魔石は取り出せない。魔石を持ち帰らなければ、稼いだポイントとはみなされないぞ。」
俺がこう言っても女性陣の顔には覇気が戻らない。
しかし、やらなきゃならんし、いずれ慣れなければならないのだ。
「では、サクサク倒していこう。」
俺は俺の後方にカサカサ言っていた陰の存在を察知していた。
こちらを狙っていることもね。
俺はそちらの方を向き、
「ローズ。」
とだけ言った。
するとローズは音もなく駆けだし、暗闇に溶ける。
俺が察知していた方向で
「ぐぎゃぁ」
の断末魔のような声が聞こえた。
ローズが仕留めたのだ。
「アベル様。」
ローズが俺を呼ぶ声が聞こえるので、そちらに向かった。
まあ、大ネズミというだけあって、半畳より一回り小さいか、リビングテーブル程のネズミが首から血を流し、横たわっていた。
ローズさん一撃ですか。
もう、からかうのは止めよう。
寝首掛かれるのも怖いし。
「アベル、魔石はどこにあるの?」
俺の肩に座っていたリーサが俺に質問した。
お前、今まで空気だったくせに、良いところで出てくるね。
「首の下、気管と肺が繋がっている場所らしい。しかし、酸素で動かないくせに、なんで肺があるんだろうね?」
俺の質問にリーサが得意そうに答える。
「そりゃ、あんた魔素よ。」
「魔素?なるほどな。魔素を吸い込むのに肺は必要か。俺たちも肺に吸い込んでから、魔素溜りに溜めているんだもんな。俺とアンネは全身だけど。」
「ダンジョンの濃い魔素を吸っているからこそ、地上には出られないのよね。こいつらが溢れ出すことがあったら、あんたたち大変でしょ?」
「スタンピードか。考えたくないね。」
「アベル様、スタンピードって何ですか?」
アンネが、非常に素直な疑問を俺にぶつけてくる。
でもその内容は非常に恐ろしいものだ。
「ダンジョンの魔物たちが溢れ出る現象さ。ダンジョンから抜け出て、地上を埋め尽くすんだってさ。怖いよね。」
「そんなことが起こりうるんでしょうか?」
こう俺に聞いて来たのはフレイだ。
「今の状況はさっきリーサが言ったとおり起こらないと思うよ。地上とダンジョンの魔素の濃さが段違いだ。これが仮に地上の魔素の濃度がダンジョンと同じになったら…」
俺はここまで言って一旦言葉を止める。
「ヒッ!」
想像してしまったローズとアンネが小さな悲鳴を上げた。
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