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215.アベル君と城と風。

215.アベル君と城と風。




 「始め!!」

 三度目のチャールズの掛け声が修練場に響く。


 まずはローズが仕掛けた。

 まあこれは当然。


 盾を持った重い騎士と、短剣のスカウト。

 どちらが先に動くかは自明の理だ。


 ローズはその盾の奥、本当の懐へ入ろうと足を延ばす。

 しかし、単槍がそれを許さない。


 ローズが潜り込む、一歩手前のいいタイミングで突き出てくる。

 ミラはかなりやるようだ。


 どっしりと構え、盾を前に着きだす。

 まさに敵を待ち構える城だ。


 ローズはその城に渦巻く風。

 その防御をいかに崩すか、風のスピードで城のほころびをいかに作るか、それが今のローズだ。


 そのローズがまた動く。

 単純に楯への奥へ行くと見せかけて、しゃがみ込み体制を低くした。


 ダッシュのスピードを殺さず、見事に低くもぐり込む。

 ミラも一瞬見失っただろう。


 そう思った。

 その下から短剣をミラへと突き上げようとしたローズは、見事に下から突き上げるカウンターのシールドバッシュを食らった。


 軽いローズの身体が宙に舞う。

 その身体が空中で丸まり、地面へと足で立つ。

 獣人の身体能力はたいしたものだ。


 ローズ、ここからだ。

 直線で言ってはダメ、曲線、回り込め。


 ローズは口からにじみ出た血を親指で拭う。

 男前だ。


 そこからまた一直線にミラの元へ向かう。

 さっきよりスピードが速い。


 ローズはまた馬鹿正直に単槍の間合いに入った。

 ミラの口元がゆがみ、そのまま単槍がローズの胴体へ吸い込むかに見えた。


 ローズが回った。

 それは有名バレエ団のプリマドンナのようにくるりと突き出された単槍の外側に回り、持っていた短剣の切っ先が、ミラの眼球の前で止まった。


 「そこまで!!」

 チャールズが試合終了を告げた。


 「おお…」

 今までと違い、騎士団からどよめきが広がる。


 まだ小さく、細いローズがミラには敵わないと思っていたんだろう。

 実は俺も思っていた。


 ゴメン、ローズ。


 ローズはもうニッコニコで俺の方に駆け寄ってくる。

 尻尾なんてブンブン音がしそうだ。


 それに比べ、ミラの方は肩を落とし、今にも楯が手から落ちそうだ。

 一瞬の愉悦と油断。


 それが勝敗を分けたんだ。

 おかしいことに、俺より喜んでいる人がいる。


 爺ちゃんだ。

 「ローズ!よくやったのぉ、飴玉あげよう。」


 「ご隠居様、私はもう子供ではございません。」

 「おお、そうか、そうか。しかし、儂の目には、まだ5歳の女の子と変わらんようだが。なあ、アベル。」


 また余計なところで話を振るんだから。

 「僕は5歳の頃のローズなんて見てな…見てたわ。そうだね、昔と変わんないね。危なっかしいところとか。」


 「もう!アベル様まで!」

 そう言ってふくれるローズ。


 「でも良く勝てたよ。2度目の突込みでどうなる事やらと思ったけど、良く回避して攻撃に転じたね。」

 「アベル様が、曲線でっておっしゃったじゃないですか。スピードだけじゃ勝てない相手がアベル様だけじゃないって盾の一撃で分かったので工夫をしました。」


 「では3人ともしばらく休んでおれ。」

 爺ちゃんはそう言ってチャールズのとこへ行き、何やら話し込んでいる。


 その間俺たちは俺たちで試合のことを話していた。

 「ローズちゃん、やるなぁ。」


 そう言って俺たちの会話に入ってきたのはユーリである。

 ユーリの嫁はエレナだから、仲のいいローズともユーリはもちろん面識があるのだ。


 「ありがとうございます。」

 若干ローズははにかみながら言った。


 「フレイもすっかり盾持ちが板についたな。」

 「それが役目になりましたからね。」


 先輩騎士の誉め言葉を受けて、少し照れるフレイ。

 「ユーリ、俺の事は褒めないの?」

 「アベル様は負けたじゃないですか。」

 「あ、こいつ、言ってはならないことを。」


 俺は少しムキになる。

 ホントのこととはいえ、真正面から言われるとカチンとくるのだ。


 「でも、アベル様が強いのは知っていましたからね。」

 なんだ、分かってんじゃん。ふん。


 「魔法を使われたら、騎士団が束になっても敵いませんしね。」

 そんなことをユーリが言うと


 「そうなんですよ。俺が盾持っている意味がなくなるんですよね。」

 などとフレイが話し出す。


 「中級ダンジョンのボスを一人でやっつけたんですよ。」

 ローズまで参戦し始め、俺を褒めているのか貶しているのか分からない会話が繰り広げられた。」


 「アベル!」

 爺ちゃんが俺を呼んだ。


 「はい!」

 俺は返事をして、爺ちゃんの下へ走った。


 「どうしたの?」

 爺ちゃんの隣に並んだ俺は何事か聞いてみる。


 「今度から、定期的に試合をやることにしたいんだが、どうだ?」

 「僕は構わないよ。他の2人も大丈夫だと思う。でもなぁ。」


 「なんだ?言ってみろ。」

 「他の2人は良いんだけどさ、僕は圧倒的ウェイト差があるからね。ウィルみたいな豪剣や、それこそ単純なブチかましで吹っ飛ばされてやれちゃうでしょ。」


 俺は今回の試合での率直な自分の弱点を爺ちゃんに言ってみた。

 「なに、避ければ良い。それだけだ。」


 「はぁ、爺ちゃん、それはいくら何でも雑過ぎない?」

 「雑ではないぞ、真理だ。なあ、チャールズ。」


 チャールズは一瞬困ったって顔をしたが、直ぐに持ち直し、

 「そのとおりでございますな。アベル様の目の良さとスピードがあれば可能でありましょう。」


 などと俺を煽ててその気にしようとした。

 「まあ、いいんじゃない?ダンジョン攻略の合間、騎士団の訓練の合間とかなら。」





 俺はそう言って、煽てに乗ってやることにしたのであった。







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― 新着の感想 ―
ちょくちょく盾と楯で表記振れがあるみたいですね。どっちが正解という程でもないのですが、作中では一方に統一しておいた方が読みやすいかなと。
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