213.アベル君と単独の模擬戦。
213.アベル君と単独の模擬戦。
「ではアベルからかの。チャールズ良いな。」
「はい、アベル様の腕、見せて頂きましょう。ではウィル、前へ。」
チャールズがウィルという騎士の名前を呼ぶ。
前に出たのは大きくて逞しい騎士だった。
俺は全員の騎士を把握は出来ていない。
千人からなる大所帯だからね。
この修練場に居るのは200人程度だ。
他は非番や街と街道の警備、あと国境近くにある詰め所に200人ほど詰めている。
でだ、俺の前に出てきたこのウィルという名の偉丈夫は、ユーリの同期でかなりやると噂の強者らしい。
俺なんて一捻りと思っているかもしれないが、おくびにも出さず前だけを見つめている。
「ウィル、アベルに胸を貸してやってくれ。」
爺ちゃんがウィルに対してやや下手にものを言った。
弟子の俺が胸を借りる立場だからなんだろう。
「いえ!ご隠居様!ご隠居様が指導をなさっておられるアベル様の腕をこの身体で感じられるのです。私の方こそ光栄の極み。アベル様、ぜひ全力で掛かって来てください。」
いやいや、せいぜい俺は120cm、君は190cmを優に超えているじゃないか。
無差別級なんてもんじゃないんだぞ。
と言っても、ウィルは本気で掛かってくるらしい。
戦う気概がすでに漏れ出している。
「わかった。負けないように頑張るよ。」
「負けないようにですか。ではこちらも負けぬようにしなければなりませんね。」
控えていた騎士が俺達に木剣を渡す。
200人余もいる騎士たちがだまり、聞こえるのは修練場の風の音だけだ。
「双方かまえ!」
チャールズの裂帛した声がかかる。
俺はわずかに木剣を握り直す。
「始め!!」
その大きな声の合図で俺はウィルの懐に入ろうとダッシュした。
その目論見は、下段より表れた木剣によって阻まれる。
剣のスピードが速ぇ。
ウィルが振り上げた剣がそのまま俺の上段に襲いかかる。
俺はそれを自慢の動体視力を持ってして翻し、自分の木剣を横に水平に薙いだ。
しかしそれも剣で止められた。
俺はそこで一旦退いた。
ふう、とため息をひとつ。
すると、ウィルが
「ここまでですか?ではこちらから行きますぞ!」
そう言って俺に襲い掛かる。
冗談だろ!そのデカい図体でなんてスピードだよ!
俺は細かいステップで前がかりに行く振りをして横にズレる。
しかしそこに剣が襲って来た。
読んでるってか!?
俺はその剣を受けるしかなかった。
豪剣、まさにそれはそう言うに相応しいスピードと重さを持って俺を襲った。
俺はそれを受けたまま吹っ飛ばされる。
ってぇ、剣を握った右手がジンジンする。
「ほう、受けますか。面白い。さすが御隠居様のお孫であり、御領主様のご子息でありますね。では、負けない試合から、勝つ試合に致しましょうか。」
何だよ、今まで本気じゃなかったってことかよ。
そう思うが早いか、矢継ぎ早にウィルの突きが俺を襲う。
俺はステップとスウェーで連続して来るそれを、避ける、避ける。
くっそ、いいようにやられるな。
仕方ない。
俺はブレインブーストを入れる。
視界が黄色みがかり、ウィルの剣が随分のんびりになる。
その剣をくぐって、ウィルの懐に入ろうとしたとき
「アベル!!」
と、爺ちゃんののんびりした、しかし大きく俺を責める声がした。
爺ちゃんてば、なんで分かるんだよ!
仕方なく俺はブレインブーストを解く。
その目の前にはすぐ前面に現れた俺に驚くウィルの顔があった。
俺は剣を落とし、両手を上げた。
「降参だよ、僕の負けだ。」
「なんでです!今なら私に一太刀浴びさせられた筈です!」
お前、至近距離で怒鳴んなよ。
唾がかかるじゃねーか。
「ウィルの剣速に対応出来なくなって、魔法を使っちゃったんだよ。爺ちゃんにはバレちゃったけどね。」
「なんと!アベル様は魔法も!うわさでは聞いておりましたが、それで懐に張られたわけですか。」
「そう、ウィル強いね。良い目標ができたよ。」
そう言って俺はウィルに手を差し出した。
「スキルを使われたとしても、私の剣もまだまだと知れました。アベル様、ありがとうございました。」
そう言って無骨な大きな手が俺の手を包んで、力強く上下に振る。
「痛い、痛い、わかった、わかったから。またやろうね。」
「はい!勿論です。今度はちゃんと最後まで致しましょう。」
そう言うと、俺の手を離したウィルは騎士団の列に戻って行った。
俺は苦笑いしながら爺ちゃんのところに戻り
「ゴメン!爺ちゃん!」
と言って、勢い良く頭を下げた。
「勿体なかったな、アレを使わずとも、打開策は見えただろうに。」
そう言ってから、俺の頭をクシャクシャに撫でまわした。
「次はフレイだ、頑張れ。」
俺がそう言うと
「はい。」
フレイは静かに返事をして中央に向かった。
「ロイ!前へ!」
ロイと呼ばれた騎士にはニヤケ顔が張り付いていた。
「よう!アベル様の腰巾着!」
フレイに向かっていきなり声をかける。
俺、あいつ知ってる。
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