212.アベル君と騎士団員。
212.アベル君と騎士団員。
今日もダンジョンにはいかずに城に居る。
城に居ると言っても、爺ちゃんの修練だ。
この前、色んなストレスが俺を襲ったからね。
座学で父さんの本を使って予習をしようとしたけど、疲れてそれどころではなかった。
リーサと話を少ししただけで寝落ちしてしまったのだ。
今日はフレイやローズとの打ち合い。
剣道的に言えば掛かり稽古って言うのかな?そんなものをやっている。
もちろんブレインブーストは禁止だ。
修練にならないもんね。
フレイは盾の扱いに慣れてきた。
剣士だった彼は、どうしても剣で相手の攻撃を捌きたがった。
その都度爺ちゃんに注意される。
「何のための盾なのだ!」ってね。
ローズも課題があった。
そうしてもスピード優先で直線過ぎるのだ。
速さは勿論武器なんだが、動きが直線過ぎれば相手には読み易くなる。
「速さと小回りで工夫しなくてどうする!」
と、爺ちゃんが叱る。
現に俺はローズの攻撃を簡単に捌き切ってしまう。
ブレインブースト無しでね。
これは“素”のアベルという肉体があまりにスペックが高いというのも起因しているんだが、捌き斬られると、どうしてもローズは落ち込んでしまうわけでね。
「ローズ、俺はもうお前のスピードに慣れているんだよ。それだけで攻めても駄目だ、フェイントを織り込んだり直線じゃなくて曲線を意識したり。」
なんてアドバイスをする俺も、爺ちゃんを相手にすればケチョンケチョンなわけでね。
打ち合いながら
「眼だけで追うな、気配を感じろ!」
そう言われて目を外すような事をすれば、上から下から木剣が飛んでくる。
5歳くらいまでの爺ちゃんは優しかったよ、ホント。
最後は3対1。
俺たち三人で爺ちゃんに立ち向かう。
秒殺ってこの世にあるんだなって思う。
俺たち三人は数秒で地面に転がされていた。
「アベル、何が悪かったかわかるか?」
爺ちゃんは転がっている俺に問う。
「正直に言うから怒らないでね。わかんない。」
「そうであろう。考える余地を与えなかったからな。」
「考えられたら、その余地で何とかなると?」
「それは、余地を作ってから考えるべきの事だな。」
「じゃ、しばらく無理そうだ。」
俺は正直に言った。
「フレイ、お主は強くなったか?」
まだ転がって、息を整えているフレイに聞く。
「ま、まだです。ご隠居様からご指導を受ける前よりは、いささかまともになったとは思いますが。」
「うむ、では騎士団、ユーリあたりだとどうだ。」
「ユーリさんも団長の指導で腕を上げました。今やってたらですか…ちょっと分かりませんね。」
頭の中でシミュレーションでもしているのだろう、フレイは考え込んだ。
「ローズはどうだ。ヨハンの指導から儂のところへ来て勝手が違うだろうが。」
「ご隠居様のご指導は、相手を倒すことについてより実践的ですから、一概にヨハン様と比べられません。ただ、その倒す腕は上がってきた様に感じます。」
「うむ、アベルの前で可愛いだけじゃ駄目だからの。」
「ご隠居様!?」
「はっはっは冗談じゃ。のうアベル。」
「爺ちゃん、そういうの僕に振らないでくれる?」
「なんだ、アベルはつれないの。ローズも苦労するだろう。」
「ご隠居様、もうやめてください。」
爺ちゃんに訴えるローズの声はもう消え入りそうだ。
「おっと、からかい過ぎたか。すまんな二人とも。さて、ちょっとばかしお前たちで、騎士団の連中に揉まれるとするか。」
「え?今から騎士団の連中の胸を借りるってこと?」
俺は爺ちゃんに聞いた。
「そうだ、儂だと強過ぎるでな。ちょうどいい塩梅の連中をチャールズに見繕っても貰うとしよう。」
そう言うと、修練場をはさんで向こう側で訓練をしている騎士団に爺ちゃんは向かっていく。
俺たちも慌てて立ち上がり、爺ちゃんの後ろを歩いた。
「ご隠居様、アベル様。いかがなされたのですか?」
こう言ったのは団員の脇で号令を出していたデビッド副団長だ。
「うむ、ちょっとな。チャールズを呼んでくれるか。」
爺ちゃんは如才なくデビッドに頼んだ。
「かしこまりました、少々お待ちください。」
デビッドはそう言うと、チャールズが居るんであろう方向へ駆け足で向かっていった。
いや、別に走んなくてもいいんだけどね。
しばらく待っていると、チャールズがデビッドとユーリを引き連れてやってきた。
「これはご隠居様、いかがなされましたか?」
そう言ったが早いか、チャールズは俺たちを見て小首を捻りニヤリと笑った。
「わかりました。見繕いましょう。」
こっちは何も言っていないのに、ユーリに何やら指示を出し始めるチャールズ。
「チャールズ。まずは一人ずつだ。」
爺ちゃんが即座に注文を出した。
「はい、承知しております。」
チャールズはそう、にこやかな顔で爺ちゃんに言った
「うむ、分かっておったか。」
ボソリと爺ちゃんがが独り言つ。
「ウィル、ロイ、ミラこちらへ!!」
ユーリが名前を呼び、その三人がニヤリと笑いながらこちらへやってきた。
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