206.アベル君とアリアンナと宝石。
206.アベル君とアリアンナと宝石。
「母さん、それはさすがにまずいんじゃないの?」
金剛石を大金貨50枚で買い取ると宣言した母さんに俺は言ってみた。
「なんでよ、城のお金がうちのお金でしょ?」
「あながち間違ってはいないけれど、歳費ってのは、この領地を運営するためのお金だって知っているでしょ?」
「嫌だ、アベル私を馬鹿にしているの?知っているわよそれくらい。でもその歳費はヴァレンタイン家の生活にも使われているわけでしょ?」
母さんは、眉間にしわを寄せ、俺に食って掛かってきた。
「まあそうだけどさ。でもそれぞれ予算てものがあるから。」
「アベルが官僚制なんて作るから悪いのよ。昔は一緒くただったのに。」
これは父さんを助けるための方策だったんだが。
あまりに城の事務が煩雑、且つ大雑把過ぎていたのを整理したんだ。
帳簿もどんぶり勘定で、非常に危うい物だったから、懐に入れていた文官もいただろう。
今更問い質せないけれど。
「なに?それじゃ父さんがあのまま働き詰めで病気にでもなった方が良かったの?」
俺の言葉を聞いて、父さんの眉がピクリと動く。
「そんなことあるわけないじゃないの、ローランドを一番愛しているのは私なのよ。だから、少しでもローランドを仕事から解放してくれたあなたには感謝しているわ。」
そう言って大げさに父さんへ笑顔を母さんは向ける。
その笑顔を見て、父さんの顔がニヘラとだらしなく笑った。
まったくこの夫婦は仲がよろしくて。
「だからね、前のようにはいかんのよ。僕らの生活も大事だけど、領民の生活も大事なんだから。彼らが健康で元気に働かないと、税が入らず、うちの歳費もならないんだからね。」
「むー、だからそんなのは分かっているってば。でも私はその金剛石が欲しいの。じゃあ、アベルただで頂戴。」
「僕一人の者なら母さんにあげても良いんだけどさ、母さんのことは大好きだからね。」
「やだ、知っているわよ。」
そう言って母さんは頬に手を合わせる。
なんだかめんどくさい方に、俺は舵を切ってしまったのか?
「ここにいるパーティーメンバーの物だからね。僕はこの城の生活だけで満足していらから良いとして、みんなはこれからの生活に必要となるお金だ。みんなで分けなきゃいけないよ。母さんだって冒険者だったから分かるでしょ。」
俺がこう言うと、母さんは皆をじっくり眺めた。
威圧すんなよ。
ただでさえ、領主夫人なんて怖い立場なんだから。
ほら見ろ、アンネなんて泣きそうだ。
「アベル、予備費がいくらかある。それだ賄うよ。」
口を開いたと思ったら、いきなり大甘のことをおっしゃる領主様。
「予備費って、もしもの備えって知ってる?」
「知っているさ。今現在のことだろ?」
ああ、確かにそのとおりだ。
「わかりました。では大金貨50枚を彼らに払ってね。」
俺がそう言うと、俺の肩に座っていたリーサが
「私もいらないわよ。この城に居るだけで満足だから。」
そう言って金貨の支払いを断った。
そうなると、他の三人も黙っていられなくなるだろうから、先手を打とう。
「じゃ、話はここまで。父さん、母さん、この三人に来金払ってね。要らないなんて言う奴が居たら、商業ギルドで通帳を作ってやって。」
そうだ、端数が出ちゃうよな。
「ああ、端数が出るから、それだけちょうだい。」
「あら、あなた要らなかったんじゃないの?」
「たまに街で買い食いくらいしたいからね。」
「そうね、それくらいしたっていい年頃だわ。」
「ところで、母さんはなんでそんなに金剛石が欲しいの?緑鉱石や赤鉱石は興味がなかったのに。」
「冒険者の頃に、魅せられてしまったのよね。私もこの原石だったらあまり興味はなかったと思うの。けどね、カットの名人が居るのよ。セイナリアになんだけどね。上から、下から、横から、どの角度から見ても光り輝き、虹が見えるの。それから虜なのよ。私だって、そんなにわがまま言わないでしょ?」
「うん、言わないね。それどころかこの大きな領主の夫人にしては質素な方だ。」
実際母さんは城であまり着飾るということをしない。
お客が来る場合は別だが、それ以外はゆったりしたワンピースドレスを着ている。
まあ、それが似合ってたりもするし、デカい胸部を隠すのにも一役買っている。
それが母さんの綺麗さも引き立てているんだから、誰も文句のつけようがないわけさ。
「ローランドは分かってくれていたのね。嬉しいわ。」
そう言って豪華な椅子に座っている父さんに腕を絡め、頬に軽くキスする母さん。
そういう事は、息子がいないところでやっていただきたい、いや、こうやって浮気できないよう父さんを絡めとっているのか。
こわっ!
「母さんが金剛石にご執心な理由もわかったし、これからの方針も話し合えたから、今日はここで解散しようか。」
「はい!」
パーティーメンバーの返事が狭い書斎に響いた。
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