205.アベル君と城の書斎で。
205.アベル君と城の書斎で。
翌日、出口に帰るまで、俺の魔法ですべての敵をなぎ倒していった。
他に入っていた冒険者もいたが、俺のトーチ魔法と、魔改造ファイアーボールXに目を丸くしていたね。
そりゃそうだ。
来る敵来る敵、全てなますにしてやった。
パーティーメンバーは、魔石を拾い、たまにドロップアイテムを拾いながら俺の後ろをついて来る。
そして、あっという間に出口に着いた我々は、早めに着いて待って寝ていた御者さん叩き起こし、早々に城へ戻ったのだった。
ホント、アッという間だった。
行きの道で、蠍や蜘蛛やカマキリに手こずっていたのがバカみたいである。
でも、俺だけで進むにはあまりに効率厨過ぎるだろう、と、いうことを父さんたちに相談しなければならない。
そのために、また父さんの書斎に皆で向い先触れを受け、待っていた父さんにこれまでの状況報告をしたのだった。
「そうだね、アベルの魔法を使って進めばそうなることは分かっていたよ。でも最初はそうしなかったんだよね?」
書斎の椅子に座り、机に頬杖をついて、リラックスした面持ちの父さんは、うず高く積まれた書類を邪魔にしながら、薄く笑った。
「うん、そうだね、それではあまりに効率が良すぎて、僕らの成長を阻害するんだ。」
「でもそれが一番安全な方法なんだろう?」
「うん、剣だけでコルピに対峙した時は僕が刺されて死にかけたからね。みんなが救ってくれたけど。リーサにまた助けられたよ。」
正直に俺は話す。
「そうか、リーサちゃんいつもアベルを救ってくれてありがとう。コルピは今の君らじゃ無理か。僕は行けると思ったんだがな。フレイヤはどう見た?」
父さんはリーサに礼を言い、頬杖を解いて腕を組み、フレイヤさんの私見を聞いた。
「そうね、中間の玄室を出てからのラーノとの戦いはうまくやったと思うわ。アーチャーが居ないから、アベルちゃんとアンネちゃんの魔法に頼ったけれど、これは仕方ないわよね。でも天井から落として、それからの仕留め方はとても上手だったわよ。」
それを聞いて父さんは嬉しそうにうなずく。
「ただコルピはね、あれはもっとアベルちゃんとフレイのコンビが剣技を磨かなきゃ駄目よね。余裕がなかったもの。あれは首や胴の関節を狙えば一発じゃない。でもこの子たちにはそれが出来なかったのよ。まだ修行不足ね。」
そう言って鉄扇を広げフレイヤさんは口を隠した。
「関節が弱いのは分かっていたけど、その前に鋏と尻尾に畳み込まれちゃったからね。僕らの修行不足は否めない。」
俺がこう言うとフレイも口を開く。
「私も鋏の最初の一撃を、まともに受けてしまい足を負傷しました。あれでリズムが崩れたのは確かですね。申し訳ありません。」
などと謝るから
「アンネの治療もあってすぐに戦線復帰できたじゃないか。気にする必要はないさ。」
と、俺はフレイを励ました。
「しかしそれがアベルの危機を呼んだ。そうだね。」
父さんがキツイことを言う。
それを聞いたフレイは唇を噛みしめ、今にも出血しそうだ。
「これからはアベルとフレイだけじゃなく、ローズもコンビネーションに入って修練するんだね。騎士団の斥候としては勝手が違うイレギュラーな存在だけど、親父もローズの面倒を見てくれるだろ。僕から頼んであげるよ。本当は冒険者であった僕が君たちを見るべきなんだけど、仕事がね。」
そう言って父さんは恨めし気に書類の山を見つめる。
俺とロッティーが官僚制を整い始めてから、これでも城の仕事は減ったんだけどね。
相変わらず父さんは“領畜”になっているわけだ。
俺の頃までに、もっと整理しなきゃな。
「でね、まだ僕らには中級ダンジョンは早いと思うんだ。僕の魔法を使えばどこも同じになっちゃいそうだけど、それじゃ後後皆も僕も困るからね。」
「だから次回から初級ダンジョンで研鑽を積むつもりってことだね。」
「そう、その方が、僕らのためになると思うんだよ。基礎的なスペックは滅茶苦茶高いんだけど、魔物に対する学習がまるでなっていないのが僕らだからね。そこを克服していかないと。みんなもそれでいいよね?」
「私はアベル様について行くだけです。」
これはフレイ。
「私はアベル様のお付きメイドですから。」
これはローズ。
「アベル様と一緒に強くなりたいです。」
これはアンネ。
「私はどこだって構わないけどね。」
もちろんこれはリーサだ。
「と、言うわけで父さん、いきなり中級をやらせてくれた有り難かったけれど、僕ら初級から積み上げて行くよ。」
「うん、分かった。それが良いんじゃないかな。Fランク冒険者の通り道、ゴミ拾いもやっていないしね。」
そう言って父さんは笑う。
「ああ、あと、またドロップが出たんだ。」
「今度は何だい?」
「金剛石。」
「おい、アベル、これはアリアンナに見せちゃダメだ。」
「なんで?」
「色々とおかしくなっちゃうんだ。」
「話は聞かせてもらったわ!!」
バン!と書斎の扉をはねのけて母さんが入って来た。
外で盗み聞きしていたのか。
「アベル、その大きさの金剛石なら、大金貨30枚とは言わないわ。50枚で買うわよ!」
5億かよ。
どこからそんな金が出てくるんだ?
歳費から出すなよ。主計が怒るぞ。
「母さん、そのお金はどこから出るの?」
「もちろん城の歳費よ!」
それを聞いて、父さんは頭を抱えるのだった。
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