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203.アベル君とゴールへ続く道。

203.アベル君とゴールへ続く道。




 俺は魔法を解いて突っ立っていた。

 呆然としていたって言った方が良いのかな。


 そしたらドスン、と腹にタックルが入り、俺は後ろに尻もちをついた。

 ぐぇぇ。

 

 構えもしない腹に入って、胃の内容物が出そうになるが必死に耐える。

 抱きついて来たのは、俺より背が高くウェイトも重いローズだった。


 叱ろうと下を向いた目の前にあったのは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたローズの顔であった。

 これじゃ叱れんがな。


 「心配かけたね。」

 俺はそう言ってローズの頭を撫でた。


 そして左肩に何かが抱きついてくる。

 アンネだ。


 アンネも俺に抱き着いたまま泣いていた。

 「アベル様、もう平気なのですか?アベル様に何かあったら、ご領主様に報告した後、自害しようと思いましたよ。」


 そう言ってきたのはもちろんフレイだ。

 「おい、物騒な事言うなよ。俺が死んでもお前が死ぬ必要なんてないさ。」


 その脇から違う声がかかる。

 「アベルちゃんらしくないしくじりだったわね。」


 フレイヤさんは、鉄線で口を隠しながら俺に向かって言ってきた。

 「あれは完全な油断だったね。鋏の腕と中足で挟んで、逃げ道を塞ぐ頭があるなんて思わなかったんだよ。」


 「まあ、このパーティーはヒーラーが二人もいるから、アベルちゃんが倒れても手出しはしなかったけど、他のパーティーなら全滅だったわね。」

 「そうだろうね。あんな強敵、D、Cランクの人達で太刀打ちできるの?」

 

 「太刀打ちできるからそのランクなのよ。」

 「ああ、なるほど。僕の認識が甘いってことがやっと実感できたよ。」


 「まったく姿とおりの甘ちゃんだったわけね。安心したわ、そういうところは普通の子供で。」

 中身はおっさんのはずなのにな。


 自分たちは十分強いと思っていた。

 それがまるっきり見込み違いだった。


 それを恥じる必要もないが、何言われても仕方がないな。

 ああ、なるほど、うちのご両親たちもそれが分かっていて、中級に黙って俺たちを送り出したのか。


 俺はそんなに天狗になっていたんだろうかね。

 そう見えたんだろう。


 やってくれる。

 とりあえずこのダンジョンはさっさとクリアしてしまおう。


 そんなことを考えている最中に、ローズは俺から離れて鼻をブーブー噛んでいた。

 そんなローズを見ながら笑いそうになるのをこらえる。


 もう、魔法全開だ。

 そして最初から順々に段階踏んでやるさ。


 「みんな、これから俺は魔法を無制限で使うから。危ないときは言うんで避けてね。こんなとこ、さっさと終わらせて地道にランクの低いダンジョンから順序だてていこう。いいかい?」


 「はい!!」


 みんなはとてもいい声で返事をした。

 「リーサもサポートよろしくな。」


 「もちのろんよ!」

 リーサは相変わらず昭和のおっさんな受け答えをした。


 「アベルちゃんとこの初々しい団結力を見てんのも良いんだけどさ、早いとこ3匹から魔石取っちゃいなさいよね。」

 あ、忘れてた。

 そう思って見渡すと、やはり全員目を伏せるのだった。

 団結してねーし。


 とりあえず、みんな俺が取りました。

 コルピの魔石は俺が輪切りにしたすぐ横にあったから、取り易かったよ。


 逆に言うと、もうちょいずれたら燃えていた可能性もあったってこった。

 とにかく、魔石は回収。


 あと、どんな虫が出ようが、超高温の刃でぶった切って行くよ!

 というわけで、最後の仰々しい観音開きのドアまで到着したわけです。


 その間20匹くらい出たかな?

 天井に居るラーノは魔改造ファイアーボールXで生きたまま焼き、コルピはトーチ魔法で漏れなく三枚におろしてやった。

 

 他の皆は苦笑いを浮かべながら俺の後ろについて来るだけだった。

 焼かれたくないだろうから、当然だ。


 俺が扉の取っ手に手を掛けようとすると、フレイが前をさえぎり、扉を開けた。

 まったく、律義な奴だ。


 扉の向こうはだだっ広い空間に岩が配置された、なんとも見た目、嫌な感じがする部屋だった。

 その部屋の奥、岩がうず高く積まれた頂上にそれが居た。


 ムカデだ。

 おい、今度は節足動物かよ。


 節操がないな。

 しかも毒あり〼


 布団を取り上げられ、畳で寝ていた俺に、嚙みついた恨みは今でも忘れない。

 尻の腫れが3日は引かなかったんだからな!!!


 前世の嫌な記憶がよみがえり、即座にトーチ魔法が起動する。

 俺は思はず過剰に酸素を供給してしまった。


 周りの連中は、暑い暑いと口にしながら、部屋の隅っこへ移動する。

もうね、ずっと炎が伸びていくだけの魔法に、酸素を共有するだけ、これだけで強力になるんだから、お気楽お手軽だ。


 俺はそれを十本の指全部に出した。

 そしてムカデの頭上に十本の青白い炎の線を送る。


 何かを感づいてムカデは逃げようとしたが、俺は炎の線をそのまま下におろした。

 それだけだった。


 10個以上にばらけたそれを確認して、俺は皆に

 「終わったよ。」


 と、だけ声を掛けた。

 するとみんなが駆け寄ってきたが、フレイヤさんは心底呆れた顔をして

 

 「アベルちゃん、あんた、もうB級レベルよ。」

 などと言う。


 「とんでもない、コルピの尻尾にやられているような小僧なんて、B級どころか、E級もおぼつかないでしょ。」

 俺がそう言うとフレイヤさんは肩をすくめ黙った。


 そして俺の耳元で声がする。

 「俺TEEEEね。これ。」


 リーサだ。

 「な、でも俺嫌なんだよな。いくら研鑽を積んだ結果としてもさ。」


 「研鑽を経て得た物は誇っていいわよ。」

 「そんなもんかね。」


 「そーよ。」

 そう言って、ムカデの死骸の方に飛んで行った。


 「あ!そうだ!今日どうする?泊って行く?早く終わったから、帰ろうと思えば帰れるけど。」

 「アベル様、馬車が来るのは明日ですよ。」


 ローズが可笑しそうに笑って俺に進言した。

 「あ、そうか。じゃ、泊まりの支度でもしようか。」



 そう言って、ネコからみんなで荷物を降ろすのだった。





 ん?ムカデってこっちで何て言うんだっけ?

 ああ、そうそう、ミルパだった。




ここまで読んでいただき、有難うございます。

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