201.アベル君と毒サソリ。
201.アベル君と毒サソリ。
「ほあら、あんた、ふざけていないで早く魔石取りなさいよ。腹の中だから、炭になってなきゃいいけどね。」
くっ、また燃えているかも案件か。
俺の高温酸素魔法も考え物だ。
しかも、腹の中まさぐるの?皆何を好き好んで冒険者なんてしているんだろうね。
「ほら、早くやる!」
フレイヤさんが急かす。
てか、俺がやることになっているんだが、そう思って周りを見渡すと、全員が目をそらす。
分かった、分かった、汚れ役は俺にぴったりだ。
なんといっても、前世で酷いバイトばかりしてきたからな。
さてと、俺は手袋をして炭化したラーノの腹の穴に手を入れた。
ガストーチ魔法で焼かれた穴は炭化しているので不快感はないんだが、問題はその奥だ。
俺は腹部の炭化した内容物を押しのけ、手を突っ込んで行く。
「おっ!」
手に固いものが当たったので、思わず声を出してしまった。
その固いものを握り、引っ張り出した。
ドロドロの粘液に包まれたそれを水で洗い流すと、それは黒光りする魔石だった。
「良かった、燃えていなかったよ。というか、魔石って燃えるの?」
「普通のファイアーボールはそんなになんない、表面から焼けて行くもの。中身まで燃えないわ。アベルちゃんの魔法は、鉄も溶かすんでしょ?そんなに穴まであけて。こんなん私もわかんないわ。」
こりゃ、父さん参った、参った、
グウの音も出んな。
などと冗談を言っている暇もない、それにもう一つ疑問がある。
「フレイヤさんはここら辺の虫たちは敵じゃないんでしょ。」
「あまり自慢したくはないけれど、まあ、負けないわね。」
「今回のラーノみたいな敵は、どうやって倒すの?」
「見敵必殺。これよ。」
やべぇ、話にならない話題だった。
「あんたのお父様や、お爺様だって同じでしょ。敵意というか、殺気を感じたら既に剣が届いてる。」
「ああね、そうだね。あの二人の反射はどうかしてる。」
「あらやだ、私だって自分では負けないと思ってんのよ。」
「けど、フレイヤはさんは帯剣してないじゃない。」
「私の得物はこれよ。」
そう言ってフレイヤさんは扇子のようなものを出した。
てか、どっから出した?
「この鉄扇が私の武器よ。まだ見せてなかったわね。」
「それで切り裂いたり?」
「そうね、叩いたり、突いたりも出来るわよ。」
「ぜひその妙技を見せてもらいたいけど。」
「うふん、高いわよ。」
「じゃ、やめた。」
「あら、つれないわね。でもアベルちゃん達に見せる必要もないでしょ、あんた達は自分でクリアできそうだから。」
「せいぜいフレイさんのお手を煩わせることにならないようにするよ。」
「そう願いたいわね。」
そう言ってフレイさんは俺にウインクをした。
キモイ。
「みんな、とりあえず今回は魔法で倒したけど、ここからまた接近戦で行こうと思う。抜かるなよ。」
「はい!」
皆、身支度をして薄暗い通路を進み始め、その間に、ラーノの倒し方の検討をしながら前に進んでいた。
すると、目の前に2匹、天井に張り付いて、こちらにまだ気づいていない個体がいた。
「通り過ぎようとしても、バレるだろうなぁ。」
俺がそう言うと、ローズが口を開く。
「各個撃破ですよね。」
お前それ気に入っちゃったの?
「そうだね、それが懸命かもな。では打ち合わせ通りにやろう。狙うのは右。リーサとアンネはもう一匹の動きを知らせて。」
そう言うと、アンネとリーサは視線が通る岩陰に隠れ、ローズが真っ先にラーノに接近する。
そして鈍い光がラーノの腹へ飛んだ。
避けようとラーノは動いたが、それを加味してローズが投げた暗器は、大きく柔らかいラーノの腹を貫いた。
腹を暗器で貫かれ、たまらなくなったであろうラーノは地面に落ちてきた。
空中で身体を器用に捻り、地面に足をつけたラーノの頭に、大きい盾がぶち当たり、ラーノはたまらずノックバックした。
そしてすかさずその盾の陰から、俺が飛び出す。
そしてノックバックし、狼狽えているラーノの首を正確に落とし、すぐに後方へ逃げる。
「アベル様、もう一匹がアベル様にお尻を向けています!」
と、後ろから声聞こえていたのだ。
案の定、俺のいた場所に紐のようなクモの糸が飛んできた。
さて、あの一匹どうやって落とす?
ここは任そう。
「アンネ!ファイアーボール!!」
俺が言うと、ファイアーボールが三連バーストで飛んできた。
アンネの放ったファイアーボールの一発目はラーノが避け、二発目はかすり、三発目が見事に頭に当たる。
ほら、アンネは自分が思っているより役に立つんだ。
まともにファイアーボールを食らったラーノは天井からそのまま落ち、俺たちに弱点をさらしたまま足をばたつかせるが、三方向からの刃がラーノを貫き息絶えた。
「やったな。良かったよ!アンネ!」
俺がそう声を張り上げると、アンネは恥ずかしそうに俯いた。
「魔法無しって言ったけど、使ったのはヒーラーのアンネだからノーカンだよね。」
俺は無理筋の言訳を言ってみる。
そして
「フレイヤさん、ここって魔法使いかアーチャーが居なければ無理じゃない?」
「そうよ、だから中級なのよ。敵が強いだけじゃないのよ。」
そんな話をしていると、急にローズが怒鳴った。
「アベル様、前方何か来ます!」
休憩なしに何だよ。
とうそぶく暇も見せず、それは姿を現した。
蠍だ。
「コルビ1ッ!!」
ダンジョンにローズの声が響いた。
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