197.アベル君とセカンドアタック。
197.アベル君とセカンドアタック。
俺達は革鎧を着込んでいる。
またダンジョンに入るためだ。
今回は最終踏破を目指すのだ。
で、準備をしているんだけどさ、結構大変なのよ。
なにが大変って、一日じゃ帰れないから、ビバークしなきゃならないんだよね。
で、食料とか敷物とかを持って入らなきゃいけない。
ダンジョン内に雨は降らないから、テントはいらないよ。気温も安定しているし。
それが、また荷物になってね。大変なんだけど、ポーターとかいないからさ、自分たちでどうにかしなければならないんだ。
なんでポーターを雇わないかって?
分かんない。
「荷物持ちだけで人なんて雇わないよ、アベルはおかしなことを言うね。」
って、父さんに笑われた。
で、我々は秘密兵器を作ったのだ。いや作ってもらった。
一輪車だ。
日本の工事現場で慣れ親しまれている、ネコと呼ばれるアレだ。
俺が図面引いて出入りの大工さんに作ってもらった。
全部木材で出来ているから、多少大きく重くなっているが仕方がない。
これ一台で全員の持ち物を持って入れるのだ。
これほど便利なものは無かろう。
ネコを見た母さんは
「ああ、私の頃にこれがあれば、重い荷物を持たなくてよかったのに。」
と、切実な声を上げていた。
では誰がこの猫を持ち上げ押してダンジョンに入るのかと言えば、唯一大人のフレイしかあるまい。
「では、頼んだ。」
俺がこう言うと
「はぁ。」
と、何とも間抜けな返事をしやがった。
いやなに、この世界に次元魔法とか、マジック〇っクスとか、〇次元ポケットとかありゃ、こんな苦労はしないんだ。
なければ道具を作らなければならない、それだけのことだ。
馬車の車内は狭いから入れられない。
だから、馬車の屋根にひっくり返して移動をする。
「あら、やだ、なに、これ。」
この細切れに話してしまうのは、勿論フレイヤさんである。
これこれこういうものだと説明すると、盛大に笑いだした。
「アベルちゃん凄いわね。こんなこと考えるなんて。今までの冒険者たちが羨むでしょう。」
「実際、母さんが羨ましがっていたよ。」
「ご領主様と奥様なら、うちのギルマスにそれで運ばせればいいんだもの。そう思うでしょうね。」
というわけで、例の中級ダンジョンにやってきた。
入り口は人がまばら、もう入って出てきたのか、気もそぞろと言った冒険者から、準備運動を入念に行っているものまで、千差万別だ。
俺達は円陣を組む。
「この前みたいなヘマはしない。いいな。疲れたら休む、これ絶対。疲れた、何か異常がある、これらを抱え込むな。みんなに言え。いいな。」
「はい!」
「よし、入ろうか。」
みんなの荷物をネコに乗せ、ネコの上部をカイトシールドで蓋のようにしたフレイが、恥ずかしそうにネコを押す。
ローズがまず入って行く。
続いてフレイ、次は俺、そしてアンネが入る。
リーサは定位置に居るよ。
「アベル様、前方ローチが2匹。他は見当たりません。」
「了解、ご苦労。」
索敵してきたローズをねぎらった。
「よし、いつもどおり、俺とローズが前衛、フレイはヘイト管理いいね。アンネはここでネコの番と対局を見ていてくれ、何が出てくるかわかんなからね。リーサもアンネと一緒に居てくれ。頼んだ。」
「はい。」
みんなが返事をする。
そして散っていった。
いつもどおり、ローズとフレイがペア。
俺がもう一匹を担当する。
基本俺は剣の修行でもあるので、めったなことでは魔法は使わないよ。
ブレインブーストもね。
さて、おいでなすった。
平べったい、ぬらりと光る不快な影が素早くこちらに近づいてくる。
ローズはあからさまに姿をさらし、一匹を釣り出した。
はぐれたもう一匹は俺が誘導する。
ローチはスピードを上げ、顎をガチガチと鳴らしながら、俺に体当たりを仕掛ける。
俺は即座に翻し、中足の関節を狙い剣を振り上げ、降ろした。
当たり!
ローチの左の中足を切断できた。
しかしそれだけでは奴のスピードは止まらない。
さて、次はどこを狙おうか。
反転してローチがまた俺を狙う。
また体当たりだ。
俺はそれをさっきのように翻す。
ところが、ローチは俺の翻った先へ前足を突き出し、爪で俺を引っ掛けて転ばせた。
「くっ、いてぇ。」
俺はしたたか背中を打ち付け、一瞬呼吸が出来なくなった。
そこへローチは羽を使い飛び上がって、俺に覆いかぶさろうとする。
「お前、それでいいのか?弱点が丸見えだ。」
そう言って、俺はローチの柔らかい腹に剣を突き立てた。
「ぎっぎっぎぃぃ」
これもまた不快な鳴き声を上げながら、ドロリとした腹の内容物を撒き散らすローチ。
それを浴びる前に転がってよけて、俺は立ち上がり剣を構えた。
そして、明らかに動きの鈍くなったローチの首を狙い、剣で突いた。
そしてローチの持ち上がっていた頭が下がり、ローチは動かなくなった。
俺は馬鹿か、〇―ク〇ウルじゃないんだ、敵の攻撃にパターンなんてない。
そこをちゃんとわかれ!バカ者が。
俺は心の中で自分自身を罵倒した。
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